TNFD提言への対応
エプソンは2024年6月に、自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:以下 TNFD)の情報開示提言への賛同を表明しました。グループにおける自然資本への依存と影響の評価および、関連するリスクと機会について、TNFDが推奨するLEAPアプローチ*1に沿った分析を行い、TNFDフレームワークに沿って整理しました。この分析に基づき、自然・生物多様性への負の影響を最小化し、地域における生態系との調和に一層取り組むことで、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
*1 自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題の評価のための統合的なアプローチ

エプソンと自然資本の関係
エプソンの事業活動や社員の生活は、自然の恵み(生態系サービス)に支えられています(図中:依存)。また、私たちの活動は自然に対して直接的・間接的に影響を与えています(図中:影響)。世界的な自然資本の損失は、私たちの事業活動や生活に大きな支障を与える恐れがあります。自然資本の損失を食い止めるため、私たちは自然への負の影響を抑えなければなりません。一方、自然資本に関するリスクの認識が高まるなか、エプソンの技術はその課題解決に貢献できると考えています。これは、エプソンにとっての事業機会でもあります。

ガバナンス
自然関連への対応を含む全社環境戦略の立案・推進は、地球環境戦略推進室およびテーマ別環境部会が担っています。
自然関連を含むエプソングループ全体に関わる重要経営テーマについては、社長の諮問機関である「経営戦略会議」での審議・報告の上、定期的に取締役会に報告することで、取締役会の監督が適切に図られる体制をとっています。
戦略
優先地域の特定
グループ42拠点を対象に生態系、水などにおけるリスクを評価し、北米、東アジア、東南アジアの11拠点を優先地域として特定しました。
直接操業における優先地域(拠点)

自然資本に対する依存と影響
組織にとって重要な自然への依存・影響関係の把握を通じ、自然関連のリスクと機会を理解することを目的に評価分析を行った結果、対象としたバリューチェーン・プロセス(直接操業・バリューチェーン下流)のうち、自然資本に対して依存し、また影響を与えている事業活動、および重要な依存・影響の内容を以下の通り特定しました。
直接操業(輸送含む)・バリューチェーン下流のプロセスの依存・影響分析

* 事業活動の依存・影響を、可視化・評価ツール「ENCORE」を用いて分析し5段階で評価 (VH, H, M, L, VL)
* 評価項目が複数ある場合、より依存・影響が強い項目で評価付けを実施
* 攪乱:生物に害を及ぼす可能性のある騒音や光害をもたらす活動
自然・生物多様性関連リスク・機会/対応
自然への依存・影響に起因する自然関連リスク・機会について、エプソンの直接操業(輸送含む)・バリューチェーン下流における依存と影響の分析を基に特定した後、「発生可能性」と「影響度」の観点から重要性を評価しました。重要な課題として特定した6つのリスクと2つの機会、それぞれの対応策は以下の通りです。
区分 | バリューチェーン | リスク・機会 | 対応 | 顕在時期*1 | |||
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リスク | 物理/慢性 | 直接操業 | 水 | 水資源(量)の減少・枯渇 取水量制限に伴う生産量低下 |
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中期 | |
水、土壌汚染 | 水質汚染、土壌汚染 他のステークホルダー起因の環境悪化 |
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移行/規制 | 水、有害物質 | 水源保全・取水・汚染に関する法規制の強化 |
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短期 | |||
移行/市場 | 水 | 水効率やエネルギー効率向上のためのコスト | |||||
移行/規制 | 資源、有害物質 | 環境負荷の低い原材料の採用義務化、化学物質利用規制強化 |
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短期 | |||
移行/市場 | 下流 | 環境負荷 | 環境負荷の高い製品に対する顧客の選好の低下 | 短期 | |||
機会 | 企業視点/自然・社会視点 | 下流 | 環境負荷、資源 | 商品・企業価値向上 |
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中期 | |
【企業視点】
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【自然/社会視点】
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環境課題を解決するニーズの向上 |
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中期 | |||||
【企業視点】
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【自然/社会視点】
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*1 短期:2030年まで 中期:2050年まで 長期:2050年以降
リスク管理
企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増す中、企業活動に重大な影響を及ぼすリスクに的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していく上では不可欠です。エプソンは、自然関連問題を含む経営上の重大な影響を及ぼすリスクについて、適切に管理しています。
自然関連リスクの識別・評価・管理プロセス
1. 調査 | 2. 識別・評価 | 3. 管理 |
---|---|---|
国内外の主要拠点を対象に、自然関連の重要な依存・影響の調査を実施 (使用ツール*1:ENCORE、IBAT、Aqueduct等) |
自然への依存・影響に起因する自然関連リスク・機会について、「発生可能性」と「影響度」の観点から重要性を定性評価 | 経営戦略会議、取締役会を通じて、適切に管理 |
*1 TNFDが推奨する、自然資本への依存・影響や環境リスクの評価・分析ツールを使用
指標と目標
TNFDでは、開示推奨指標(コアグローバル開示指標)が示されています。エプソンでは、各評価の結果、自然に関連するリスクとして水、化学物質に関するテーマが重要であることがわかりました。また、資源循環を重量テーマに掲げ、資源の持続可能な利用に向けて取組んでいることから、これらを自然関連の目標として設定しています。これらの24年度の実績については以下のとおりです。
テーマ | 関連するTNFDコア指標No. | エプソン指標 | FY24目標 | FY24実績 | |
---|---|---|---|---|---|
水 | 水量 | C3.0 | 水使用売上収益 原単位 (千m³/億円) |
0.73 FY17-22平均値より1%削減 |
0.62 |
水質 | C2.1 | 法基準値 超過件数 | 0件/年 | 1件 | |
化学物質 (土壌、大気) |
- | 事業所環境関連 法令違反件数 | 0件/年 | 0件 | |
資源 | C2.2、C2.3、C3.1 | サステナブル資源率*1 | 35% | 33% |
*1 原材料に対するサステナブル資源(再生可能資源+循環資源+低枯渇性資源)の比率