エプソングループの人権デューデリジェンス
人権デューデリジェンスの考え方
エプソンは、国連「ビジネスと人権の指導原則」(以下、指導原則)に則り、人権尊重のためのプロセスを設定しています。「エプソングループ人権方針」を制定し、グループ会社はもとより、ビジネスパートナーを含め、バリューチェーン上の人権への負の影響を特定し、それを調査して問題・課題を析出し、それを防止・是正する活動を継続して実施しています。これらの防止・是正活動は、随時また定期的に結果もしくは経過をモニタリングし、社内外へ適切な報告・開示を行っています。
具体的な取り組み
1.人権への負の影響の特定、影響評価 (上記 人権尊重のプロセス②)[指導原則18]
2023年度、改めて人権への負の影響の特定、影響評価を行いました。評価にあたっては以下の情報を参照しました。
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- 過去4年間にわたるRBA(Responsible Business Alliance)の活動(CSRセルフアセスメント、RBA監査の受審)を通じての認識・知見
- 社内・サプライチェーンの事案の発生や相談・通報の状況
- 経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」、「同 実務参照資料」等の資料や、経済人コー円卓会議ステークホルダーエンゲージメントプログラムに参加して得た情報 等
その結果、現時点で当社において特に人権侵害の影響が重大で、人権侵害が起きやすい領域は、自社およびグループ社員、派遣社員、サプライヤー社員、構内常駐会社の労働者、移住労働者に係る、下表のような労働ならびに労働安全衛生に関する事項、地域的にはアジア、業態別では製造、と改めて特定しました。「特に注意すべき具体的な例」は、RBA行動規範ならびにエプソングループでの発生事例を参照して挙げています。
優先度の高い対象者 | 主な負の影響 | 特に注意すべき具体的な例 |
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自社およびグループ 社員 派遣社員 サプライヤー社員 構内常駐会社の労働者 移住労働者 |
強制労働 | ・雇用に係る仲介料、斡旋料、諸費用等の負担 ・パスポートの預かり ・強制的な時間外労働 ・退職の自由 |
若年労働 | ・時間外労働、夜間の労働、健康、安全、道徳を損なうおそれのある労働 | |
過重労働 | ・労働時間に関する法令および国際的に認められた人権規範の違反や、健康を害するような長時間労働 | |
賃金・福利厚生 | ・超過時間分の賃金の未払い ・懲罰としての賃金の不支給・減額 |
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非人道的待遇 | ・ハラスメント | |
差別 | ・解雇や処遇における差別 ・妊娠テスト、妊婦の解雇 |
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労働安全衛生 | ・危険・有害な労働環境 ・女性労働者の保護 ・緊急時の労働者保護 |
2. 人権への負の影響の防止・軽減 (上記 人権尊重のプロセス③)[指導原則19]
エプソンは、毎年、RBA行動規範および調査票に準拠したCSRセルフアセスメントを行っています。2019年4月にRBAに加盟した後は、RBA行動規範のグループへの周知・浸透活動を進めるとともに、RBAの調査票に準拠して、セイコーエプソン事業所・国内関係会社・海外現地法人、また主要なサプライヤーに対し、年一回、継続してCSRセルフアセスメントを実施しています。CSRセルフアセスメントの結果についてはRBAに報告しています。セイコーエプソン各事業所・各社・各サプライヤーは、人権への負の影響の所在を特定し、特定された負の影響に対して是正計画を策定し、是正・軽減を図っています。
2024年CSRセルフアセスメントの概要(エプソングループ拠点)
項目 | 内容 |
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調査票 |
RBA Self-Assessment Questionnaire(SAQ) - Facility Risk Questions - Facility Control Questions |
調査内容 |
RBA行動規範 行動規範 セクションA 労働 セクションB 安全衛生 セクションC 環境 セクションD 倫理 セクションE マネジメントシステム |
実施期間 | 調査:2024年4月~6月 課題把握、是正への取り組み:2024年7月~ |
対象拠点 | セイコーエプソン事業所 11事業所 国内関係会社 8社(うち製造会社6社、販売その他会社2社) 海外拠点 45社(うち製造現法15社、販売その他30社) |
負の影響への対応 | 是正計画を策定し、本社関係主管部門からの支援・協力の下、是正・軽減に取り組む |
2024年の結果(総括)
・2024年は、全面改訂となったRBA SAQに準拠したCSRセルフアセスメントを行いました。
セイコーエプソン各事業所・国内関係会社・海外現地法人におけるCSRセルフアセスメントの結果、どの拠点においてもハイリスク*はありませんでした。
* ハイリスクは、評価点60点未満。
・各拠点の回答を本社RBA主管部門ならびに関係主管部門において精査した結果、RBA VAP監査評価におけるプライオリティ不適合に相当する問題は見当たりませんでした。精査の過程においては、疑問点等について各拠点とコミュニケーションをとり、要是正点について個別にフィードバックしています。
・多くの拠点において共通する、対応が十分でない事項が以下のとおり二点ありました。
事項 | 対応 |
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障がい者への合理的配慮 | 本社主管部門より、全拠点へ向けて、この概念の意味や対応の考え方についてガイドラインを発信し、理解を促進していく |
外が暗い時間帯での避難訓練の実施 |
本社主管部門にて、訓練の実施についてのアナウンスを本社・防災対策担当と検討中 |
今後も引き続き、各拠点に対し、グループ方針やグループ規程、ルール・ガイドライン等の一層の浸透を進め、重大な人権侵害リスクを継続して抑制するよう取り組みを進めていきます。
(参考)エプソングループにおける、2020年から2023年のCSRセルフアセスメント(改訂前のRBA SAQに準拠したセルフアセスメント)の結果(スコアによるリスクレベル)の推移は以下のとおりです。毎年の是正活動の結果、年々、全体のリスクレベルは低下していると考えています。
* ローリスクは、評価点85点超で、基本的に、RBA行動規範の要求レベルで行動ができている
ミディアムリスクは、評価点65点超85点以下で、RBA行動規範の要求レベルで行動ができていない項目があり、自主的改善が必要
ハイリスクは、評価点65点以下で、RBA行動規範の要求レベルで行動ができていない項目について、改善および結果のモニタリングが必要
RBA行動規範の遵守状況確認(模擬監査)
セイコーエプソンの主要な事業所について、RBAのセルフアセスメントを実施していますが、今回、それに加えて、専門家による遵守状況の確認(模擬監査)を実施しました。
模擬監査の実施概要
実施時期 2024年12月
実施事業所 広丘事業所(長野県)
実施方法 RBA VAP監査基準に準じた内容・方法(書面確認、実地調査、ワーカーインタビュー)
監査人 RBAの准監査員資格を有する第三者
模擬監査の結果、重大な人権への負の影響は確認されませんでしたが、RBA行動規範への不適合の指摘を受けています。RBA会員企業として、不適合事項について、関係する主管部門と協議を行い、対処計画を策定して自主的に取り組みを行っています。また、取り組み状況は、随時経営への報告を行っています。
3. 結果・経過のモニタリング (上記 人権尊重のプロセス④)[指導原則20]
セイコーエプソン事業所・関係会社等の拠点・各事業所・各社・各サプライヤーは、経営層の関与の下、是正計画にしたがって人権の負の影響の是正・軽減を進めています。重大な負の影響については、本社関係主管部門が是正の完了まで確認します。
エプソンでは、毎年一回、CSRセルフアセスメント調査を継続して行い、各社・各事業所におけるRBA行動規範への不適合事項の是正状況を確認しています。さらに、第三者の視点で課題を抽出して是正し、活動のレベルアップにつなげるため、東南アジア・中国に所在する自社主力製造拠点7社(2025年5月現在)が継続してRBAのVAP(Validated Assessment Program)監査を自主的に受審しています。エプソンは、これまでに、RBA行動規範の不適合がなく、かつ満点(200点)となった場合に与えられる「プラチナ認証」を、インドネシア、マレーシア、タイ、中国、フィリピンの生産拠点で取得しています。
CSRアセスメント調査もしくはRBA VAP監査の結果、自社グループ内において2024年度に析出され、是正し、または継続して取り組みを行っている人権への負の影響の主な例は以下の通りです。
事案 | 発生場所 | 対処状況 |
---|---|---|
退職者への賃金支払いの遅延 | 製造法人 | 法令(退職日から3以内)に則った支払い日に変更(システム改修予定) |
安全器具(洗眼器)の維持管理の不備 | 製造法人 | 法令要求を満たす器具に交換 |
元派遣社員への有給休暇の付与日数の不足 | 製造法人 | 法令に基づき有給休暇の計算方法を見直し、不足分を付与 |
飲料水(水道)の水質検査の未実施 | 製造法人 | 法令に基づき実施手順の見直し、検査を実施 |
製造機械への安全装置の未装備 | 製造法人 | 法令に基づき当該機械への安全装置を装備 |
また、これまでに取り組み・是正を行った人権への負の影響には次のようなものがあります。
事案 | 発生場所 | 対処状況 |
---|---|---|
業務委託先社員の長時間労働 | 業務委託先 | 業務委託先と是正方法について協議し、対策済み |
労働者による就職費用の負担 | 業務委託先 | 返金済み |
労働者派遣に関する法律違反 | 製造会社 | 委託業務を法律の範囲内とする |
工場の避難経路上の避難用出入口ドアの改善 | 製造会社 | 該当する避難用出入口のドアの構造見直し |
人材紹介会社への仲介料・採用費用の移民労働者負担 | 製造会社 | 移民労働者負担を中止し、労働者に返金 |
移民労働者のパスポートの預かり | 製造会社 | パスポートの預かり禁止徹底 |
時間外労働に係る労働者との合意プロセス | 販売会社 | 超過時間勤務を要求するプロセスの明示 |
採用の際に行う健康診断費用の本人による立て替え払い | 製造会社 | 本人に返金し、立て替え払いを必要としないプロセスに変更 |
人材エージェントとその派遣する社員との間の契約の法的要件不備 | 人材エージェント | 法律を遵守した契約書に更新 |
超過時間勤務記録の不備 | 人材エージェント | 超過時間勤務賃金の未払い分支給および超過時間勤務記録システムの改良 |
源泉徴収の金額の計算の誤り | 人材エージェント | 源泉徴収納付額の調整、計算システムの更新 |
従業員に係る法定積立金の未納 | 業務委託先 | 業務委託先と協議・改善済み |
労働時間の管理の不備 | 業務委託先 | 業務委託先と協議・改善済み |
構内でサービスを行う業務委託先の超過時間勤務賃金の未払い | 業務委託先 | 現地法に基づく超過時間勤務賃金支給済み |
4. コミュニケーション・報告 (上記 人権尊重のプロセス⑤)[指導原則21]
要是正事項への取り組み状況は、毎年責任者によりレビューを行った上でウェブサイトおよびサステナビリティレポートにおいて報告しています。また現代奴隷と人身売買に関するステートメントによりエプソングループのグローバルな取り組みを報告しています。
良好な労使関係を構築し、維持するため、エプソンは、社員に対し積極的に情報を提供し、真摯に対話や協議を行っています。また、お客さまに対しても、エプソンの人権尊重への取り組み状況について、必要に応じ随時コミュニケーションを図っています。
2024年度に行った主な取り組み
カスタマーハラスメントへの取り組み
お客さまからのお問い合わせには商品やサービス等の問題に関し、改善を求める正当なクレームがある一方、ごく一部ではありますが、社会通念に照らし不相当な要求や言動によって、応対する従業者の人格が否定されたり、尊厳が傷つけられたりする場合があります。これらは、継続的なサービス提供を阻害し、サービス品質の悪化を招きます。
このようなカスタマーハラスメントへの、社会の関心が高まっています。エプソンでは、2024年度、セイコーエプソンならびに国内関係会社の販売・サービス部門を中心にアンケート調査およびヒアリングを行いました。その結果、エプソンにおいても、一部で心身への悪影響など深刻なカスタマーハラスメントの被害があることが確認されました。これを受け、エプソンでは、厚生労働省「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」等を参照し、以下の対応をとっています。
・「エプソン国内グループ カスタマーハラスメントに対する指針」を制定(2025年3月21日)し、社内外への周知を行いました。
・カスタマーハラスメントに該当する言動があったと当社が判断した場合は、毅然(きぜん)とした態度で対応します。
商品・サービスの提供やお客さま対応をお断りする場合があります。また、カスタマーハラスメントが継続する場合や、悪質なもの、
刑罰法規に触れると判断できる場合等は、警察・弁護士等と連携して対処することがあります。
・カスタマーハラスメントを受けた従業者は、上司への報告を行い、組織としての対応をとることを基本としつつ、相談窓口の利用
について周知しました。
・必要に応じ、被害を受けた従業者へのメンタルケアを含めた配慮を行います。
なお、エプソングループがお取引先さま等に対するハラスメントを起こすことのないよう、エプソングループ社員に対しても、ハラスメント教育等において、改めて周知・徹底を行っていきます。
*対象となるエプソン国内グループについては下記をご覧ください。
AI倫理ガバナンスに関する取り組み
エプソンにおいても、製品への組み込み、業務への導入など、AIの利活用が進められています。現時点で、主に、他者の著作物を無断で使用する等の著作権侵害、当社および他者の機密情報の漏洩、誤った情報や不適切な表現・偏見や差別的な内容の生成・発信等のリスクを想定しています。AIを適正に利活用し、人権侵害などの負の影響に対処するため、エプソンでは以下のような対応を行っています。
・推進体制
ーAI倫理委員会の設置(2023年7月)
AIを取り巻く動向を幅広く情報収集・分析し、方針決定を行うとともに、各国におけるAIに関する法規制・諸方針への対応や、グループ全体のAI倫理
ガバナンス体制の構築と適切な運用を行うことを主な目的として、AI倫理委員会を設置しています。技術開発、品質管理、法務、管理等の部門がメンバー
として参画しています。
ーAI倫理管理体制/推進体制
各部門にAI倫理管理責任者を置き、AI倫理の意識啓発活動及び教育、AI利活用案件のリスク評価の実施等を行っています。
また、海外を含む全関係会社についても、AI倫理推進責任者を選任し、各社におけるAI基準類の制定、AIシステム利活用案件の審査・リスク評価の実施、
従業員教育等を行い、グローバルにAI倫理ガバナンスを推進する体制を構築しています。
・方針・規程等の制定
ーAI倫理原則(2023年8月1日制定、2025年4月1日改定)
AIの研究・開発・運用・利活用等を推進するにあたり、人間とAIが共生する人間中心の社会を実現するため、
エプソンとして実践すべき原則を定めています。

ーAI関連の規程類、生成AI利活用ガイドライン等の制定
AIシステムの適正な利活用と倫理的実践を確保するため、「AI管理規程」を始めとして、各種ガイドライン、チェックリスト、リスクレベル判定表を
作成して提供しています。これらの規程やガイドライン等はグループ全体に適用されます。
また、生成AIの急速な普及を踏まえ、著作権・プライバシーへの配慮や、入力・出力に関する注意事項等を明記した「生成AI利活用ガイドライン」を制定し、適正な
利活用を推進しています。
・運用
AIシステムのリスクレベルを評価し、そのリスクの大きさに応じてリスク対策を講じる「リスクベースアプローチ」による管理を行っています。
AI倫理推進責任者は、AI利活用案件ごとに、リスクレベルを判断し、記録しています。
著作権侵害や情報漏洩のほか、社会の多様性への配慮、透明性・公平性の確保等の観点から人権侵害リスクについて確認し、リスクがある場合にはその抑止・回避策
をとることとしています。
・教育
AI倫理の重要性の認識を深め、AI倫理管理施策を確実に実施するため、2024年度、国内・海外グループ会社を含めた全社員を対象として、AI倫理に関する
e-ラーニングを実施しました。さらにAIの社内利活用またはAI製品・サービスの提供に従事する社員を対象としたe-ラーニングを実施しています。
パワーハラスメント防止への取り組み
エプソンにおいては、労働や安全衛生といった領域が最も人権侵害のリスクが高いと認識しており、日本国内においては、特にハラスメントに対する取り組みを鋭意継続して行っています。
2023年度に行った取り組み
エプソンにおいては、労働や安全衛生といった領域が最も人権侵害のリスクが高いと認識していますが、2023年度はこれら以外の領域についても、評価を行いました。具体的には、法務省が「企業が尊重すべき人権の分野」として提示する25の類型を参照し、「テクノロジー・AI」「プライバシーの権利」「消費者の安全と知る権利」「表現の自由」「先住民族・地域住民の権利」「環境・気候変動」「知的財産権」「賄賂・腐敗」の8つのうち、人権回復の困難度と影響の規模・範囲を検討したうえで、当社の企業活動との関連性を考慮し、AI、プライバシー、消費者の安全(特に製品安全性、表示)、環境・気候変動の4つをテーマとして設定しました。
企業が尊重すべき人権の分野
この4つについて、一般的に考えられる人権の負の影響、エプソンで関係しそうな負の影響、負の影響を防止・停止・軽減するための法令や一般的な仕組み・枠組み、エプソンにおける仕組み・枠組み、ステークホルダーからの相談・通報の窓口の有無、実際の相談・通報の有無等に関し、それぞれ関係部門とディスカションを行いました。その結果、特にAIについては、現時点では社内での利活用が限定的であり、深刻な負の影響は認められないものの、今後技術が劇的に発展していく可能性があり、社会に対する影響が大きいこと、当社においても社内での利活用のほか事業における開発や製品への組み込みなど、様々な展開の可能性と、それによる人権への負の影響が考えられることから、継続してモニタリングをしていくこととしています。ほかの3つのテーマについても、現時点で深刻な負の影響は認められませんでしたが、継続して見守りをしていきます。