人材育成
人材育成の新たな取り組み
エプソンは、長期の時間軸で「人が自律的にキャリアを形成し、成長し続ける会社」を目指しています。従業員一人ひとりが変化への対応力を高めることで、Epson 25 Renewedに掲げた事業目標を達成し、会社の発展を支え、さらには、持続可能でこころ豊かな社会を築くことにつなげます。
エプソンは、この視点から改めて教育研修体系を点検し、各事業体の意見や従業員の声も踏まえ、3つの取り組みを進めています。
① 生涯キャリアの自己形成支援
エプソンでは、人が育つ組織づくりに向けた取り組みを継続的に行い、達成感・成長を実感できるようなキャリアの構築に向けた支援を行っています。中長期的視点から自身が目指していきたいキャリアを考え、その実現に向けて主体的に行動できるよう、年代別・階層別の「ライフタイムキャリアサポート研修」(LTCS)を2016年度に開始し、「LTCS40」「LTCS50」、さらに入社後間もない社員向けの「LTCS入門コース」と拡大してきました。
●2023年度実績
LTCS50研修(50歳の全社員を対象) 307人(2023年度までの累計 2,903人)
LTCS40研修(40歳の全社員を対象) 186人(同 1,881人)
LTCS入門コース(新入社員研修において実施) 344人
2023年度から、30代を対象とした「LTCS A30」と、70才雇用も視野に入れた「LTCS50up」を新たに立ち上げ、年齢の節目ごとに、継続してキャリアを考える機会を提供し、ライフタイムキャリア上の様々な課題を乗り越え、自律的なキャリア形成に取り組む社員を支援しています。
入社3年目面談
若年層の“早期戦力化”と“定着化”を目的に、新卒入社後3年目を対象に人事部による面談を実施しています。仕事や職場環境、自己のキャリア形成についての悩みを聞き、職場も含めたフォローをすることで、対象者の仕事や職場へのエンゲージメント向上を図っています。
② マネジメント層スキルアップ研修
社員が生き生きと働き成長していくために、職場での上司のマネジメントやコミュニケーションは非常に重要な役割を持っています。アンケート調査等を通じ、特に経験の浅いマネージャーを中心に、この点に悩みを持つマネージャーが多いことが明らかになったため、新たに1 on 1コミュニケーション研修を導入したほか、既存の新任課長研修に加え、課長任用後のフォローアップ研修を立ち上げ、課長同士が情報を共有し、考え、学びあえる場を設けています。また、外部と提携し、マネジメントスキルを学べる様々なコンテンツを提供しています。
③ リスキリング支援
社員が自律的にキャリアを形成し、成長し続ける意欲を支援するとともに、社員のスキルアップや変化への対応力強化を目的として、リスキリングへの取り組みを始めています。リスキリングへの取り組みは、(i)全社員がデジタルなどの最低限の知識を習得し、自身の業務に活用することができるようにする全体の底上げ、(ii)強化領域、新領域への重点配置およびローテーションを進めるため、商品や事業ごとの固有の内容の学び直しやDX等の専門領域の教育の実施、(iii)社員自らの学ぶ意欲に応え、また社内公募へのチャレンジへの支援を行うため、学びの機会の提供・スキルを磨く環境の整備、の3つを主な方向性として検討を進めています。
ローテーション拡充の取り組み
エプソンでは、社員一人ひとりが自律的にキャリアを形成して成長し続け、内外の環境変化への対応力を高めるため、またバリューチェーンの効果的・効率的な運営に資するため、本人の能力や経験・知識の幅を広げるローテーションを重視しています。しかしながら、従来ローテーションがなかなか進まなかったため、社内公募・JOBチャレンジ制度利用時の上司確認撤廃、昇格要件へのローテーションの織り込み、異動元職場への人材の補充、管理職の目標管理へのローテーション項目の追加、査定への反映に加え、異動を支援するためのリスキリングメニューの拡充などを進めています。
今後も職場への配慮や異動者への支援等の取り組みを継続し、ローテーションを促進していきます。
ローテション率
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 目標値 | |
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率 | 6.0% | 7.3% | 9.0% | 10.0% | 10.1% | 毎年15%以上 |
社内公募制度の活性化
社内公募制度は、「従業員の自信とやりがいに基づく活躍、および社内における人材ローテーションの活性化」を目的として2007年度に制度化されましたが、社内公募による異動決定者数は毎年20~30人程度にとどまっていました。2021年度より申請時の上司確認を撤廃したことを機に、応募数は大幅に増加し、3年連続で200名程度の異動が成立しています。 社員の自発的な挑戦意欲に応えるとともに、社員が様々な業務や職場を経験し、視野を広げ、スキルを高めることにつながり、変化対応力の強化が進んでいると考えています。
社内公募利用者実績
制度変更前 | 制度変更後 | ||||
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2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
応募数 | 142 | 148 | 378 | 293 | 325 |
決定者数 | 27 | 12 | 217 | 201 | 176 |
主な教育活動
人材育成は、業務を通じた育成(OJT)を基礎に、教育体系を整備して階層別の教育や各種の専門教育をOFF-JTとして行っています。リーダー人材の育成には、選抜型の階層別教育プログラムを整備しています。
階層別研修
当社では、管理職に任用する前には「マネジメント実践コース」の受講を必須とし、管理職層に必要な「ビジネス軸」および「行動軸」での役割を理解し、要件を身につけます。「ビジネス軸」は経営戦略の目的を正しく理解し、社内外の環境変化に迅速、柔軟かつ適切に対応するスキルの研修であり、「行動軸」は戦略実現のために果たすべき役割を組織や個人に展開し、適材を配置することで、所属メンバーを育成し成長を支援するスキルの研修です。
新入社員・C等級の社員・シニアスタッフなどの各階層別集合研修、および各種公募型研修では、将来、管理職層の役割を担える人材となれるよう、連続性のある内容の研修を実施しています。
リーダー層を対象とした研修
管理職任用に向けた「マネジメント実践コース」の他に、選抜型研修としてF1、F2、F3研修を実施しています。「F1研修」は次期役員候補が同レベルの候補者とともに経営者になるためのスキルを習得します。「F2研修」は部長・課長を対象に、次期事業責任者を担える人材となるための実践スキルを習得し、「F3研修」は、ビジネスの基礎を学び実際に事業提案する実戦形式の研修です。これらを通じて、グループ会社を含めた次世代リーダー育成が行われています。
新入社員教育
エプソンは、入社後の1年間を仕事に対する基本姿勢および仕事の進め方を習得するための教育期間と位置付けています。
入社後3週間は、以下の習得を目的に、国内グループ会社の新入社員を対象に集合研修を行っています。
・エプソン社員に期待される行動を理解し、実践する。
・「省・小・精の技術」の基礎であるものづくりの心構えと態度を学ぶ。
・チームで協力して活動することの大切さを実感する。
具体的には、エプソン社員の行動のよりどころである「エプソングローバル社員行動規範」を理解するための講義、「ものづくり実践研修」での実践訓練などを行います。また、研修期間を通して行われるグループ活動を通じて、チームで働くことの大切さや楽しさを学びます。
集合研修終了後は、配属先の育成リーダーのもと、職場でのOJTを通して仕事の進め方を学びます。育成リーダーには主に入社3〜5年目の社員が選ばれ、個々の新人に合わせた育成計画シートを作成し、1年間、二人三脚で独り立ちをサポートします。これにより新人だけでなく育成リーダー自身の成長も期待されています。
「新入社員」の肩書が外れる直前の翌年3月には、「フォローアップ研修」として再度集合研修を行い、お互いの成長を確認し合います。1年間を振り返りビジネスパーソンとしての基礎をより確実なものとし、一層の成長と貢献に向けた2年目以降の行動計画を考えます。
若手社員の海外派遣
エプソンは、売上収益の8割以上、従業員数の7割以上を占める海外各国・地域に107カ所の研究開発、生産、営業拠点を整備し、グローバルにビジネスを展開しています。世界中に分散している製造・販売・開発の各拠点において業務を経験し、また、海外での就労・生活を通じて異文化対応力を養うことにより、将来グローバルに活躍できる人材を育成することを目的として、若手社員を積極的に海外現地法人に派遣しています。(海外トレーニー制度)
COVID-19の影響で一時派遣を中止していましたが、2022年度は3年ぶりに派遣を再開し、23年度は27人を派遣しました。
海外トレーニー制度による海外派遣者推移
2012年度 | 2013年度 | 2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
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人数 | 8人 | 20人 | 34人 | 38人 | 29人 | 28人 | 22人 | 13人 | 1人 | 27人 |
目標管理
エプソンではすでに30年以上の長きにわたって「目標管理」制度を運用しています。全ての階層の社員全員が「目標管理」制度の対象となっており、上司と職場のメンバーが合意と納得のもとに目標を設定し、達成をフォローし、成果を振り返って、次期にはさらに高い目標に挑戦するサイクルを繰り返しています。この「目標管理」制度はOJTによる人材育成そのものであり、人材が成長することで組織・会社も発展するWin-Winの関係を築くサイクルになっています。
「お客様の期待を超える価値を創出する」人材を育成する「ものづくり塾」
ものづくり塾は、エプソンが創出する「お客様価値」をこれまで以上に高めるために、基本的な技術・技能の継承に加え、ものづくりの具体的な仕事のステップを実践により体感することで、幅広く多面的に業務を遂行できるような人材の育成にも取り組んでいます。具体的には、製品を構成するさまざまなパーツを自らの技術で作り上げるための部品加工技術(成形・プレス)の基礎や、製造ラインの高効率化を目指すために必要な技術(省人化・自動化など)を体得させる教育を行っています。
また、地域・社会貢献として地域企業の新入社員実践研修、中学生・高校生の企業体験、技能体験授業の指導や厚生労働省からの要請を受けた海外の技能評価システム構築のODA(政府開発援助)への専門家派遣も行っています。
全社生産戦略に対応できる人材育成の推進
近年、急激な賃金上昇や製造離れによる労働力確保が困難になるといった環境変化が起きています。また、自然災害や感染症の蔓延により物流が滞り、お客様への製品供給に影響が出るという状況も発生しています。これまでの、安価で豊富な労働力を前提としたものづくりや、一極集中型の生産では環境変化への対応が困難になっており、エプソンは「Epson 25 Renewed」の中で、自動化・デジタル化によるスマート工場の推進や、分散生産・近消費地生産の強化を掲げています。
ものづくり塾では、生産ラインを支える技術者育成の各種研修を年間200回以上開催しています。装置作りに必要な機械製図・計測を始め、機械加工技能を習得する研修を行っています。また、自動化を推進する技術者を養成するための圧空・電気制御や装置組立・調整の基本など要素技術を学ぶ「メカトロニクス基礎研修」や、さらに実践的な技術・技能を習得するための「FAロボット研修」「画像処理研修」「メカトロニクス実践研修」といったカリキュラムを用意し、社員の学ぶ場と機会を提供しています。
また、国内の技術者育成はもちろんのこと、製造拠点である海外現地法人でも国内研修プログラムを基に製造・工機保全のリーダークラスの育成を展開しています。現地に赴いての教育に加え、海外出張が困難な時期に構築したリモート研修システムも駆使し、必要な研修をタイムリーに展開しています。これらの取り組みによって最適な人材育成を進め、分散生産などの全社生産戦略にも対応できるよう各海外現法の工程管理レベルを向上させます。
技能五輪を活用した若手技能者の育成
ものづくり企業であるエプソンは、製造に必要な知識・技能を早期に身につけた「尖った技能者*1」を育成するため、技能五輪訓練を活用しています。技能五輪に訓練生が挑戦できるのは入社2年目から連続2回までとし、短期集中訓練で全国レベルの技能習得を目指すものです。出場種目は、実業務に応用可能な「精密機器組立て」「プラスチック金型」「メカトロニクス」「電子機器組立て」「移動式ロボット」「ウェブデザイン」「時計修理」の7職種を選択し、毎年10~15人が全国大会へ出場しています。
技能五輪訓練生としてものづくり塾に配属された新入社員は、やすりがけ・鋸刃切断などで「ものづくり」の基本を体感するとともに、各職種別に機械・電気などの基礎知識を学びます。訓練は日常実施される職種別訓練と合わせ、マラソン・目標設定などを行う強化訓練を年3回行い、チームとして連帯感の醸成を図っています。
また、全国大会を想定し、技能五輪に参加する他企業との合同訓練会の実施や「機械加工技能士」「電子機器組立て技能士」「ウェブデザイン技能士」「時計修理技能士」などの国家資格取得も盛んに行っています。技能五輪訓練終了後、五輪訓練で培った基礎技能から商品づくりのための技能にシフトすべく応用訓練を実施し、事業部へ配転されます。受け入れ先からは、期待を超える活躍に高い評価を得ています。
*1 前例を突き破り革新的な技術やシステムを生み出す能力を持った技能者
2023年度教育実績データ
主なeラーニング受講者数(日本)
2023年度 研修名 | 受講者数 |
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貿易管理教育_一般(2023) | 18,466人 |
エプソンのコンプライアンス(2023) | 20,532人 |
情報セキュリティー基本編(2023) | 21,074人 |
環境基礎教育Ⅱ(2023) | 20,334人 |
調達基礎(調達遵法)(2023) | 17,691人 |
J-SOX教育(2023) | 20,038人 |
ハラスメント防止教育(2023) | 19,524人 |
労働安全衛生基礎(2023) | 19,742人 |
エプソンの両立支援 | 11,551人 |
ビジネスと人権(2022) | 18,473人 |
*2024年3月末までの受講者人数(セイコーエプソン(株)および国内関係会社)
階層別研修受講実績
研修名 | 対象者 | 受講者数 | 受講率 |
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新入社員入社時集合研修 | 新入社員 | 344人 | 100% |
C等級研修 | 新規C等級格付者 | 285人 | 97.9% |
SSF研修 | 新任SSF | 301人 | 98.0% |
新任課長研修 | 新任課長 | 143人 | 93.5% |
新任部長研修 | 新任部長 | 43人 | 91.5% |
* 階層別研修受講データは、セイコーエプソン(株)2024年3月末現在
* 未受講者は2024年度に受講予定
* SSFはシニアスタッフ(役職ではなくチームリーダーレベル)
研修時間
単位 | 2018年度 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
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一人当たり研修時間 | 時間 | 11.0 | 11.1 | 7.4 | 20.9 | 21.5 | 34.2 |
総研修時間 | 時間 | - | - | - | 228,696 | 235,910 | 375,219 |
*セイコーエプソン(株)正規従業員の集合研修およびeラーニングの受講時間(2020年度までは人事部主催分のみ、2021年度より各機能主管部門や事業部主催の教育・研修を含む。)