人権の尊重
考え方と取り組み
エプソンは、経営理念および企業行動原則を経営の根幹に据え、企業活動における人権の尊重は企業が果たすべき重要な責務であると考えています。2005年に国連「グローバルコンパクト」に基づいて「エプソングループ 人権と労働に関する方針」を制定し、また2011年の国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)に則った行動を実践してきました。2019年4月にはグローバルサプライチェーンの影響を受ける労働者やコミュニティーの権利と福祉を支援する非営利組織であるResponsible Business Alliance(RBA)に加盟し、サプライヤーの皆様と共に「RBA行動規範」に則った事業活動を進めています。
また、エプソンでは、刻々と変化するグローバルの事業環境における新たな課題に対応するため、人権への取り組みを強化しており、「エプソングループ 人権と労働に関する方針」を「指導原則」の内容に準拠して、取締役会の決議を経て、2022年4月1日付で「エプソングループ 人権方針」として改定しました。
エプソンの人権尊重への取り組みは、人事担当執行役員の責任の下、人事担当部門を中心に、本社関係主管部門および国内外関係会社の人事部門とのネットワークを構築して行っています。エプソンでは、「エプソングループ 人権方針」および「RBA行動規範」に基づき、事業上の人権リスクとして、児童労働、強制労働、その他の搾取的な労働、労働者の権利や労働条件、差別、およびハラスメントを含む非人道的な待遇などを特定し、年1回全グループ会社においてCSRアセスメント調査を行い、当社およびグループ各社における人権と労働に関するリスクの評価と改善・是正活動を行っています*。また、労働者および労働組合やその他の労働者団体等は重要なステークホルダーであり、グループ各社において、各地の労働慣行等を踏まえながら、真摯に対話や協議を行っています。
* 2021年度のCSRアセスメント調査の結果、当社およびグループ各社における、児童労働・強制労働・差別等の重大な人権侵害事案は0件でした。
人権に関する教育としては、従前からRBA行動規範やその詳細ルールについて社内および国内外関係会社人事部門を中心に周知を図ってきていますが、2021年度は、「エプソングループ人権方針」の改定にあたり、取締役およびセイコーエプソン本社関係機能主管部門のメンバーや、国内外関係会社の関係者に対し、改めて「ビジネスと人権」に関する勉強会を行いました。
エプソンでは、エプソン・ヘルプラインをはじめ、ハラスメント相談窓口、長時間労働相談窓口、従業員相談室などの各種相談窓口を設置し、従業員からの人権と労働に関する相談に対応しています。ハラスメントなどの人権侵害や労働に関連する処罰事案や会社の対応については、定期的に全社開示するとともに社内広報等を通じて注意喚起を行い、同様の事案の未然予防・再発防止に努めています。また、エプソンでは、お客様や投資家、地域住民の方など全てのステークホルダーの方が利用可能な通報窓口やサポートセンターを設置し、あらゆる苦情に対して適切に対応しています。
エプソンは、これらの人権リスクに対する取り組みを「サステナビリティ重要テーマ」の一つとして位置付け、グループ全体で推進するとともに、サプライチェーンにおける人権課題にも適切に対処するため、CSR調達主管部門を通じて、人権に係る当社方針や行動規範等の周知・教育、リスク評価・改善活動を行い、また取引先通報窓口を設けて対応しています。
現代奴隷と人身売買に関するステートメント
エプソンは、2015年に発行された英国現代奴隷法や2018年に発行されたオーストラリア現代奴隷法、および米国カリフォルニア州サプライチェーン透明法などに基づき、現代奴隷や人身売買をサプライチェーンから撲滅するための方針やエプソンが取り組んだ結果を以下の通り報告します。
人権デューデリジェンス
エプソンは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、グループ会社はもとより、ビジネスパートナーを含め、製品を開発し、製造し、販売する事業活動に関連したバリューチェーン上の強制労働・児童労働やハラスメント、差別などの、潜在的な、あるいは顕在化している人権リスクを特定し、それを調査して問題・課題を析出し、それを是正・改善し、また予防するための「人権デューデリジェンス」のプロセスを継続して回しています。
エプソンのビジネス上における人権デューデリジェンスのプロセスは以下の通りです。
1.方針制定
2.人権リスクの特定、影響評価
3.改善計画、悪影響の停止・防止・軽減
4.結果/経過のモニタリング
5.コミュニケーション・報告
6.救済措置
具体的な内容は以下のとおりです。
(1) 方針の制定、コミット
エプソングループ 人権方針(2022年改定)
エプソンは、「国際人権章典」および「労働における基本的原則および権利に関する国際労働機関(ILO)宣言」において定められている人権を尊重し、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」、ならびに加盟するResponsible Business Alliance(RBA)がそれらの国際的人権規範を参照しつつ定めたRBA行動規範ならびに諸基準・手続きに準拠して人権尊重の取り組みを行っています。
(2) 人権リスクの特定・評価の方法
エプソンの事業活動に関係するすべてのステークホルダー(お客様、株主・投資家、地域社会、ビジネスパートナー、NGO・NPO、社員 など)の中で、人権の観点から優先度が高いと考えられる社員・従業員・移民労働者にフォーカスして人権リスクを評価しています。
優先度の高い対象者 | 事業活動による影響/リスク | 評価の方法 |
---|---|---|
自社およびグループ従業員 | 雇用の自由選択(強制労働)、若年労働者、労働時間、賃金・福利厚生、人道的待遇(ハラスメント等)、差別、結社の自由 |
RBA準拠の セルフ・アセスメント |
派遣社員 | 同上 | 同上 |
構内常駐業者従業員 | 同上 | 同上 |
サプライヤー従業員 | 同上 | 同上 |
移民労働者 | 同上 | 同上 |
エプソンは、まずサプライヤーについて2015年度から順次、また海外製造拠点に対しては2017年度から、RBA行動規範および調査票に準拠したCSRセルフアセスメント調査を行っています。以降、年一回、各事業所・国内関係会社・海外現地法人、またサプライヤーに対し同様に継続してCSRセルフアセスメント調査を実施しています。
(3) 評価結果、是正・予防
上記の評価活動を通じて人権リスクの所在を特定し、特定されたリスクに対して是正・改善・軽減対策を取るよう各社・事業所に指示しています。
2021年度中に新たに是正・取り組んだ人権リスク:
・人材エージェントとその派遣する社員との間の契約の法的要件不備
・残業記録の不備(人材エージェント)
・源泉徴収の金額の計算の誤り(人材エージェント)
・採用の際に行う健康診断費用の本人による立て替え払い
また、これまでに取り組みを行った人権リスクには次のようなものがあります:
・人材紹介業者への仲介料・採用費用の移民労働者負担
・移民労働者のパスポートの預かり
・時間外労働に係る労働者との合意プロセス
・長時間労働
(4) モニタリング
エプソンでは、毎年一回、CSRセルフアセスメント調査を継続して行い、各社・各事業所における行動規範への不適合事項の改善状況を確認しています。さらに、RBA行動規範への自社の適合度を正しく把握し、課題を抽出して是正・改善につなげるため、主要生産拠点において、RBAのVAP(Validated Assessment Program)監査を自主的に受審しています。
(5) コミュニケーション・報告
改善計画への取り組み実績および経過は、毎年責任者によりレビューを行った上でWebに開示し、サステナビリティレポートとして報告しています。また現代奴隷と人身売買に関するステートメントによりエプソングループのグローバルな取り組みを報告しています。
(6) 救済措置
優先的に対応する、「エプソングループ従業員」「派遣社員」「構内常駐業者従業員」「サプライヤー従業員」「移民労働者」に加えて、お客様や投資家、地域住民の方など全てのステークホルダーを対象とした通報制度やサポートセンターを設置し、あらゆる苦情に対して適切に対応しています。
エプソングループ各拠点のCSRセルフアセスメント評価
エプソンは、当社およびグループ各社における人権およびその他のリスクについて、潜在的な脅威と、それらが発生するおそれのある箇所について特定し、対策を講じてリスク発生を未然に防ぐため、自社事業所・国内関係会社および海外現地法人に対して2017年から自己評価アンケート(CSRセルフアセスメント調査)を実施しています。
エプソンは2019年4月にRBA(Responsible Business Alliance)にレギュラー会員として加盟した以降は、毎年RBA Self-Assessment Questionnaire(SAQ、自己評価アンケート)を用いて自社グループの状況を調査し、RBAに対し結果を報告しています。アンケートはRBAの行動規範に基づく、人権・労働、安全衛生、環境、倫理、およびそのマネジメントシステムに関する400問余りのアンケートです。RBAは製造拠点の自己評価を義務付けていますが、エプソングループとして共通の基準で各拠点の状況を評価するために、販売・その他の製造拠点以外の事業所・子会社に対しても同じアンケートを用いて調査を行っています。
アンケート内容
大区分 | 小区分(例) |
---|---|
A:人権・労働 | 雇用の自主性、若年労働者、労働時間、賃金、非人道的な扱い、差別、結社の自由 など |
B:安全衛生 | 職場の安全衛生、労働災害、寮・食堂 など |
C:環境 | 許可証と報告、汚染、危険有害物、排水・廃棄物、大気汚染、エネルギー・温室効果ガス排出 など |
D:倫理 | 誠実なビジネス、不適切な利益の排除、知的財産権、公正な事業、通報、責任ある鉱物調達、個人情報保護 など |
E:マネジメントシステム | コミットメント、説明責任、リスク評価、研修、サプライヤー など |
CSRセルフアセスメントの概要
項目 | 内容 |
---|---|
実施期間 | 2022年4月~6月 |
調査対象 |
セイコーエプソン事業所 11事業所 国内関係会社 8社(うち製造会社6社、販売その他会社2社) 海外現地法人 50社(うち製造現法17社、販売その他現法33社) |
調査票 | RBA Self-Assessment Questionnaire(SAQ) |
課題把握、分析 | 2022年8月~9月 |
改善実施 | 2022年10月~ 各事業所・子会社において改善実施 |
改善状況確認 | 2023年4月にCSRセルフアセスメント調査を実施して確認 |
CSRセルフアセスメント評価ランク分け
リスクランク | 評価点 | 説 明 |
---|---|---|
ローリスク | 86点以上 |
基本的に、RBA行動規範の要求レベルで行動ができている 改善が必要な項目も自主的改善が可能 |
ミドルリスク | 66-85点 |
RBA行動規範の要求レベルで行動ができていない項目があり、自主的改善が必要 |
ハイリスク | 65点以下 |
RBA行動規範の要求レベルで行動ができていない項目について、改善計画に基づき状況モニタリングが必要 |
2022年CSRセルフアセスメント評価結果
評価 | 評価点 | セイコーエプソン 事業所 |
国内関係会社 | 海外現地法人 | 合計 | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
製造会社 | 販売その他 会社 |
国内関係 会社計 |
製造現法 | 販売その他 現法 |
海外現法計 | ||||||||||||
事業所数 | % | 会社数 | % | 会社数 | % | 会社数 | % | 現法数 | % | 現法数 | % | 現法数 | % | 拠点数 | % | ||
ロー リスク |
86点 以上 |
11 | 100 | 6 | 100 | 2 | 100 | 8 | 100 | 17 | 100 | 19 | 58 | 36 | 72 | 55 | 80 |
ミドル リスク |
66-85 点 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 14 | 42 | 14 | 28 | 14 | 20 |
ハイ リスク |
65点 以下 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
合計 | 11 | 100 | 6 | 100 | 2 | 100 | 8 | 100 | 17 | 100 | 33 | 100 | 50 | 100 | 69 | 100 |
【総括】
・各事業所・国内関係会社・海外現地法人におけるCSRセルフアセスメント調査の結果、どの拠点においてもミドルリスク以上となり、人権上・コンプライアンス上・倫理上の重大な問題は見当たりませんでした。
・2021年度の調査でミドルリスクとなった製造5拠点に対して、
①本社各主管部門によるグループ規程の周知、ガイダンス実施
②SAQ設問の解説、回答内容の是正(実態と回答のズレを修正)
③RBA VAP監査受審によるRBA行動規範不適合の把握と是正
を実施したことにより、5拠点すべてがローリスクとなり、製造拠点はローリスク100%となりました。全体では、ミドルリスク拠点は前年の35%から20%へと減少・改善しました。
・2022年度は、各拠点に対し、グループ方針やグループ規程、ルール・ガイドライン等の一層の浸透を図るとともに、販売・その他拠点に対する対応方針を固めて、回答内容について詳細を確認することにより、プライオリティ抵触リスクの撲滅とミドルリスク拠点のさらなる減少を図ります。
パワーハラスメント防止への取り組み
パワーハラスメント防止研修の実施
エプソンは、公平で働きやすい職場環境の実現に向け、パワーハラスメントの防止と根絶を目的として、ハラスメント相談窓口を設置し相談対応を行っています。またパワーハラスメント防止研修をグループ会社まで含めて展開しています。一般者を含む全社員を対象としたeラーニング教育を毎年実施するとともに、経営層、管理職層、リーダー層を対象とした階層別教育や海外赴任者研修を行っています。管理職層を対象とした研修では、パワーハラスメントが発生することによる影響の大きさを改めて周知し、参加者のディスカッションを通じて事案を共有し、必要な対策を考える機会としています。これらに加えて、2021年度からは健康管理情報と連携した高ストレス職場への個別フォローや管理職層を対象とした相談窓口の設置など、個々の職場に合わせたきめ細かい対策を取ることにより、パワーハラスメントのない組織風土づくりを推進しています。
アンガーマネジメント研修
パワーハラスメント防止のために、「アンガーマネジメント」が有効だと言われています。
怒りの感情と上手につきあうスキルを身に付け、怒りを上手にコントロールできるようになるために、2016年度より「アンガーマネジメント研修」を展開しています。怒りへのその場の対処や長期的な体質改善のスキルを身に付ける基礎編から、パワーハラスメントにならないコミュニケーションスキルを学ぶ叱り方教室など、経営層への展開を筆頭に、階層別・職場別・自己啓発など、毎年70講座前後を開催し、当社および国内関係会社延べ9,600人余りが受講してきました。従来のパワハラ防止研修に加え、こうした具体的なスキルの習得でパワーハラスメントの撲滅を目指します。
ハラスメント防止研修/アンガーマネジメント研修実施状況

(2022年3月31日時点)
保安要員の人権研修
当社は、第三者組織である取引先に保安業務を委託しており、委託先会社に人権研修の実施を依頼しています。2021年度に実施したサプライヤーを対象としたセルフアセスメントによるCSR詳細評価において、委託先会社による人権研修の実施について確認しています。