技術者インタビュー

安全で快適な社会を支える
ジャイロセンサーの未来

エプソンは、水晶デバイスメーカーの大手として、各種水晶デバイスを開発、製造しています。エプソンの水晶デバイスには時計や通信機器、コンピューター、スマートフォンなどのクロックに用いられるタイミングデバイスや、自動車やカメラなどの角速度検出に用いられるジャイロセンサーと、その応用製品となる慣性計測ユニット(IMU)のセンシングデバイスがあります。これらは、私たちの身の回りにあるさまざまな機器に利用されています。

数あるエプソンの水晶デバイス製品の中から、車の車体制御や、安全装置の動作制御に用いられるジャイロセンサー(以下、車載用ジャイロセンサー)を担当する清水が、製品の特長や今後の展望、開発に対する想いを語ります。

TD商品開発部 シニアスタッフ 清水 教史
TD商品開発部 シニアスタッフ 清水

車に乗る人の命を守る
ジャイロセンサーの役割

開発を担当している製品と、その製品の特長を教えてください。

インタビューに答える清水教史

清水ジャイロセンサーは、角度が変化する速さを検出するセンサーです。ジャイロセンサーは、さまざまなところに使われており、大きなものでは、ロケットや航空機、人工衛星、船舶などがあります。逆に小さなものでは、携帯電話やゲームのコントローラー、デジタルカメラなどに搭載されています。

私が開発に携わっているのは、自動車の横滑り防止や、サイドエアバッグといった安全装置の動作制御に使用されるジャイロセンサーです。私たちのジャイロセンサーが、お客様に採用いただいている理由の1つとして、使われる環境下において高安定であるという優位性があります。

車載向けジャイロセンサーを例にとると、過酷な環境であっても、安定した出力が得られるセンサーということが価値になります。これは人の命に係わる車載向けには当然のことで、例えば車がガタガタ道を走っていたらエアバッグが開いてしまったり、車体の制御が効かなくなったりということがあっては大変です。これに対してはエプソン独自の素子構造であるダブルT型振動子を用いることで、振動が入った場合にも出力の変動が少ないセンサーを実現しています。また、水晶は温度の変化に対して高安定な特徴をもつ材料であることから、車載で求められる高い温度から低い温度まで安定して使うことができます。

このように使われる環境の変化に対して強いセンサーをお客様に提供することで安全性を向上させ、最終的にはより安心して乗ることができる車の実現に貢献しています。

民生品から車載品の市場へ

車載用ジャイロセンサーの開発のきっかけを教えてください。

インタビューに答える清水教史

清水エプソンの水晶デバイスは、時計から始まって、携帯電話やコンピューターといった、民生品向けに大きく発展してきました。ジャイロセンサーも、最初にカメラの手ぶれ補正やゲームコントローラーなど民生品向けに採用いただき、次にカーナビ向けに採用いただきました。これに加えて新たな事業の柱とすべく開発に着手したのが、車載向けのジャイロセンサーです。

開発の課題にはどのようなものがあったでしょうか?

清水車載用ジャイロセンサーを開発するにあたっての課題は市場実績がなかったことです。エプソンのジャイロセンサーは、カーナビ向けでは市場シェアが大きかったのですが、より信頼性への要求が高い、車の姿勢検出に使われた実績はありませんでした。そのため、社内の評価環境が十分とは言えず、立上げに大変苦労しました。

それと同時に、車体姿勢検出に使用いただくためには、我々のセンサーが車の使用環境に耐えられることを証明する必要がありました。我々のセンサーはどのようなストレスに弱いのか、どこまで耐えられるのか、どこがまず壊れるのか、壊れたらどうなるのかをすべて洗い出すことから始めました。それらを一点一点整理し、必要に応じて改良し、お客様に丁寧に説明することで信頼いただき、採用に至りました。お客様から要求される高い品質目標を実現するため、設計・技術・製造・品質・営業など部門を超えて社内の品質システム作りを行ってきたことは、私達にとって非常に大きな財産になったと思います。

ジャイロセンサーによる
社会発展への貢献

ジャイロセンサーの今後の展望について教えてください

ジャイロセンサー

清水エプソンのジャイロセンサーの強みは、高精度、高安定で、そこをさらに伸ばしていきます。

車載向けについては、世界中で自動運転(AD)や先進運転支援システム(ADAS)の開発が進められており、実車両への搭載も進んでいます。自動車は人が運転するものという概念が覆ろうとしています。これまでエプソンがビジネスをしてきたのは同じ車載向けでもサイドエアバッグ向けや横滑り防止が主で、車に乗る人の安全確保を目的とした使われ方でしたが、今後は高度な車体制御という新しいステージに向かいます。我々は民生で培ってきた高精度ジャイロセンサー技術をADやADAS向けにも展開し、これまでのセンサーでは検出することができなかった車の細かい動きを検出することができれば、より安定した車の制御が実現でき、さらに快適で安心して乗れる車の実現に貢献できると考えています。

また、これとは別に、慣性計測ユニット(IMU)を利用した大型構造物や機械装置のモニタリングも今後目指していく市場だと考えています。例えば構造物に発生する角速度をモニタリングして、異常を検知してアラートを出して知らせたり、機械装置の劣化度合いを推定したりといった、今までお客様側で行っていた部分をデバイスメーカーが担うという提案ができると考えています。

原石から最終品まで
一貫製造する水晶デバイス

エプソンの水晶デバイスを利用するお客様に向けてのメッセージをお願いします。

清水教史

清水エプソンでは、水晶素子の開発を担当しているメンバーと、水晶のポテンシャルを引き出すICの開発を担当しているメンバーが同じ開発部におり、緊密に連携を取りながら水晶デバイスの開発を行っています。これにより、省電力・小型・高精度な水晶デバイスをタイムリーにお客様にご提供できることが、エプソンの強みだと考えています。また、生産体制については、水晶デバイスの素材である人工水晶から、一貫して自社製造しているという点にも強みがあります。

今後も社会の発展に貢献できる、高品質な水晶デバイスを安定してお届けしていきます。ご期待ください。

記載の部署名・役職はインタビュー当時のものです。(取材:2020年11月)