調査分析
エプソンの知的財産リサーチ
方針決定に貢献するIPランドスケープ
一般に「IPランドスケープ」とは、「経営戦略または事業戦略の立案に際し、(1)経営・事業情報に知財情報を取り込んだ分析を実施し、(2)その結果(現状の俯瞰・将来展望など)を経営者・事業責任者と共有すること」と定義されています(特許庁 「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究報告書」https://www.jpo.go.jp/support/general/chizai-jobobunseki-report.htmlより引用)。
エプソンのIPランドスケープで最も重視していることは、「経営」、「事業・開発」、「知的財産」の方針決定に貢献することです。いくら素晴らしい分析を実施しても、その結果が方針決定に何も寄与しなければ意味がありません。分析した結果を単に情報提供するだけではなく、何らかの意思決定につなげていく必要があります。
そのためには分析の内容もさることながら、情報提供・提案のタイムリーさも非常に重要です。短期間で調査分析を行って速やかに提案していくことと、先回りして調査分析を行っていくことなどに力を入れて日々活動しています。
エプソンにおいて、新たなイノベーション支援のために実施されたIPランドスケープの一例を紹介します。
エプソンでは、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」にて「環境・共創・DX」に重点を置いており、その「環境」に関する新たなイノベーション創出の取り組みの一つとして、微細藻類によるCO2吸収技術の開発を進めています。CO2を分離・固定するために円石藻に着目し、培養条件の最適化とさまざまな育種技術の活用によって、現在ラボ内では森林※1と比較して70倍のCO2固定量まで高めることに成功しており、さらなる固定量向上を目指しています。
※1 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所データ
この開発の検討段階では、まだ具体的にどの藻類を使うのかは確定しておらず、また知的財産の権利取得状況を含む他者の開発動向を十分につかめていませんでした。そこで開発の方向性を速やかに検討・決定するために、IPランドスケープを用いて知的財産情報の分析を実施しました。実際にIPランドスケープを行ってみるとさまざまな状況が見えてきました。
最初は他者の知的財産の権利取得状況の分析です。下図のとおり、特許出願は多くなく、また当社事業と競合する可能性のある出願人は少なく、参入障壁も低い状況であることが分かりました。一方で、先行する企業や大学の出願時期や出願件数から、開発着手時の開発体制や共創関係を理解することができました。このように知的財産情報を分析することで、最適な開発体制や共創相手を見出すことにつながり、CO2吸収技術の開発が加速しました。
次にCO2吸収に関する課題の分析です。CO2吸収に関する特許出願について各発明が解決する技術課題を軸にマップ化して分析したところ、CO2吸収を効率的に行うための技術課題が浮かび上がりました。このうちの一つは開発部門でも関心が高い課題でした。この技術課題に関する出願をさらに詳細に分析したところ、この課題解決に有効なアプローチを見出すことができました。この情報に基づく提案は開発部門にて役立てられ、開発の方向性の検討に貢献することができました。
本事例は、新規開発テーマの検討~初期段階においてIPランドスケープを用いた分析を実施し、その内容を速やかに情報提供・提案していくことにより、イノベーション支援を行った一例です。
エプソン知的財産本部は、このような方針決定に貢献するIPランドスケープを戦略的に行う調査分析の専門組織を設置しており、今後とも、さまざまなテーマに対するIPランドスケープとその分析結果に基づく提案を行うことにより、イノベーション創出の支援を進めます。
事業リスクを極小化するFTO調査
エプソンは、他者が有する知的財産権を侵害しないよう細心の注意を払っています。独自のコア技術から生み出す価値を提供するために新しい製品・サービスをお客さまにお届けしたくても、他者の知的財産権を侵害していると、当該技術を使用できず、お客さまにその価値を提供できなくなる可能性があるからです。このようなことがないよう、エプソンでは他者の知的財産権の侵害を未然に防ぐFTO(Freedom-To-Operate)調査に力を入れています。
FTO調査は国内外の膨大な特許の中から、新しい製品・サービスに関連する他者の知的財産を漏れなく拾い上げ、侵害の有無を精査します。エプソンでは、自社の製品・サービスの技術理解が深い、開発・設計経験があるベテラン技術者がサーチャーとして多数在籍しており、最新のデータベースを活用しながら、年間数百テーマにのぼるFTO調査を短期間に精度良く実施する組織体制を整えています。また、特許出願権利化業務の経験のあるサーチャーも多いことから、その経験を生かし、懸念が残る他者の知的財産があれば、開発設計部門での非侵害判断、設計回避検討、有効性判断の最終検討にも入り込むことにより、他者の知的財産権を侵害しない活動の維持に貢献しています。