組織と社外評価
エプソンの知的財産組織
エプソン知的財産本部の組織体制
知的財産戦略を策定・実行するために、エプソンの知的財産本部はあらゆる知的財産権に対応する機能組織を備えています。また、各機能組織は、技術開発部門や事業部門と連携して、知的財産戦略を策定し、これを実行・推進するように、技術開発部門および事業部門のそれぞれに対応する知的財産担当(以下、知財担当)を設置しています。
エプソンにおける知的財産活動は、約200名の知的財産本部員と技術開発部門・事業部門の知財関係者、国内外のエプソングループの関連会社の知財関係者により推進されています。
知的財産本部では、知的財産活動の価値階層※1レベル5の達成を加速するため、2024年4月に、IPランドスケープ活用によるイノベーション支援機能、イノベーションを成果に導く契約審査機能、ブランドイメージを高める商標管理機能をひとつに集約した新組織を立ち上げました。レベル5の達成を目指す知的財産戦略を、新たな組織体制において戦略的・一体的に実行することにより、イノベーションを強力に支援していきます。
知的財産活動のグローバル連携
エプソンでは、日本国内に拠点を置く知的財産本部が全世界の知的財産活動を管理しています。知的財産本部は、エプソングループに属する国内関連会社・海外関連会社の法務・知的財産部門、営業部門と連携して、世界各地域の知的財産に関する課題への対応や契約締結、模倣品対策活動などを統括管理しています。
知的財産基盤を強化する知的財産教育
エプソンは、会社の価値創造ストーリーの担い手となる全社員を対象に、知的財産教育の各種コースを設置しています。その狙いは、社員が自らの果たすべき役割に応じて必要となる知的財産の知識を身につけ、深め、知的財産保護と活用を知的財産本部と連携して遂行できる人材を育成することにより、各事業の成長戦略を支える知的財産基盤を強化し、エプソンにおける価値創造をより加速することにあります。
エプソンの知的財産教育では、入社・昇格・管理者登用に伴う教育は必須とされ、さらに技術系社員にはそれぞれの階層ごとに必要となる知的財産の知識・留意点・スキルの習得が必須とされています。また、共創をスムーズに進めるための知識・留意点の習得や技術調査スキルの習得に特化した専門コースも設置しています。さらに、営業・管理系社員にも階層に応じたコースを設置しています。
知的財産の基礎知識だけでなく、役割に応じて求められる専門性の高い知的財産教育を全社員に提供するコースを設置し、習得させていることが、エプソンの知的財産教育の特長です。
また、知的財産本部内では、知的財産戦略に基づいてBP(Brilliant iP)を取得できる人材を、集合教育・OJTの組み合わせによって育成しています。さらに、「事業部長/開発本部長、知的財産本部長による2者懇談会」への参画や知的財産制度について研究・検討する外部団体の知的財産委員会への参画の経験などを通じて、知的財産戦略を策定・実行し、イノベーション創出および成長戦略ストーリーの支援を主体的(Proactive)に推進でき、世界のさまざまな知的財産の課題に対応できる人材の育成を進めています。
エプソン知的財産活動に対する社外評価
エプソンは、独自のコア技術・サービスをさまざまな知的財産権として権利化し、活用してきました。その実績は、各種の社外機関より高い評価をいただいています。近年におけるその代表事例をご紹介します。
社外発明表彰での受賞
エプソンの発明は、公益社団法人発明協会が主催する「全国発明表彰」「地方発明表彰」において、高い評価をいただいており、1970年代から現在に至るまで数々の賞を受賞しています。近年におけるその代表的な受賞事例をご紹介します。
2024年:全国発明表彰「日本弁理士会会長賞」受賞
「高精度シリコンがんぎ車を用いて長時間駆動を可能とした機械式腕時計の発明」(特許第6891622号)
エプソンは、令和6年度全国発明表彰において「高精度シリコンがんぎ車を用いて長時間駆動を可能とした機械式腕時計の発明」について「日本弁理士会長賞」を受賞しました。機械式腕時計の発明が全国発明表彰において特別賞を受賞するのは、当社が1974年に「内閣総理大臣発明賞」を受賞して以来、50年ぶりです。
この発明は、機械式時計の重要部品である「がんぎ車」にシリコン材料を採用したものです。がんぎ車のシリコン回転部に、プリントヘッドの加工で培ったMEMS加工を用いて、シリコンのしなる特性を活かした複数のバネ部を形成しました。バネ部が中心軸凸部を周囲から押圧することにより、接着剤を用いずに、回転部と軸の中心を偏心なく一致させました。また、シリコン回転部先端の一部を中心軸凹部に入れ込むことにより、回転部と中心軸を一体的に回転させています。
本発明により、高精度に加工した軽量なシリコンがんぎ車を偏心なく回転させて、駆動エネルギーの損失を大きく減らすことができました。本発明のシリコンがんぎ車はオリエントスター「スケルトン」の機械式腕時計に搭載されています。本発明により、ぜんまいを薄く長くすることで、駆動時間を最大70時間まで延長(従来の金属製がんぎ車搭載の場合と比べて最大20時間延長)でき、週明けの時刻合わせが不要な機械式腕時計を実現できました。
なお、エプソンでは、オリエントスターのウェブページおよび製品ニュースリリース・製品情報ウェブページに、本発明の特許番号を掲載することにより、オリエントスターのプロモーション支援活動を進めています。
2022年:全国発明表彰「文部科学大臣賞」受賞
「インクジェット双方向印刷における印刷ムラ低減法の発明」(特許第4635762号)
エプソンは、令和4年度全国発明表彰において「インクジェット双方向印刷における印刷ムラ低減法の発明」について「文部科学大臣賞」を受賞しました。この発明は、プリントヘッドを往復走査して画素の階調値に応じた数のドットを紙面に形成するインクジェット双方向印刷において、往走査時に形成するドットと復走査時に形成するドットを、ドットが偏らないように分散配置したものです。この発明を実施した結果、往復走査によってドット形成位置にずれが生じてもドット分布が偏らなくなり、高速・高画質印刷が可能となりました。この発明によって、ホーム・ビジネス、写真、商業産業のさまざまな分野に高速・高画質印刷のインクジェットプリンターを提供することが可能となり、印刷のデジタル化による環境負荷低減・生産性向上や写真文化・アートの醸成への貢献ができています。
2021年:全国発明表彰「内閣総理大臣賞」受賞
「単色レーザー光源を用いた大光量高画質プロジェクターの発明」(特許第5928569号)
エプソンは、令和3年度全国発明表彰において「単色レーザー光源を用いた大光量高画質プロジェクターの発明」について「内閣総理大臣賞」を受賞しました。この発明は、蛍光体にレーザー光を照射すると所望の色光を発光できる点に着目し、単一色のレーザー光源から回転蛍光板に光照射して得られる発光(黄色=赤色+緑色)と単一色のレーザー光源の光(青色)に基づき赤緑青の色光を生成し、これを投写光に用いたものです。レーザー光源は高周波数でパルス幅変調することによりデジタル調光可能に設定しています。この発明により、レーザー光源を使用したプロジェクターの普及が進むと共に、各種店舗・施設やイベント等でのサイネージや空間演出へとプロジェクターの利用が広がっています。また、プロジェクションマッピングや空間全体を映像で覆うデジタルアートといった新しい映像表現の世界を広げることにも貢献しています。
なお、この発明の発明者2名は、この発明にかかる開発テーマについて、令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「科学技術賞(開発部門)」も受賞しています。
2019年:全国発明表彰「朝日新聞社賞」受賞
「乾式オフィス製紙機の発明」(特許第6127882号)
エプソンは、令和元年度全国発明表彰において「乾式オフィス製紙機の発明」について「朝日新聞社賞」を受賞しまた。この発明は、使用済みの紙から新たな紙をその場で生産できる乾式オフィス製紙機に搭載された、ドライファイバーテクノロジーの中核技術の一つである2段ふるいの発明です。この発明は、使用済みの紙を解繊機で繊維状にし、最初に目の細かい第1ふるいにより繊維を選別し、次に第2ふるいを通す構成により、使用済みの紙から得られた繊維を均一なシート状に堆積して新たな紙の生産を行う乾式オフィス製紙機を実現したものです。
エプソン知的財産活動に対するその他の社外評価
エプソンの知的財産活動は、このほかにも、社外からさまざまな高い評価をいただいています。その事例をご紹介します。
2023年:知財功労賞「特許庁長官表彰」受賞
エプソンは、令和5年度 知財功労賞において「特許庁長官表彰」知財活用企業(意匠)を受賞しました。エプソンの「知財功労賞」の受賞は、平成20年度の「経済産業大臣表彰」(特許制度活用企業)の受賞以来で2回目となります。知財功労賞は、同一企業が複数回受賞することが稀な表彰です。今回の受賞は、エプソンが知的財産戦略を弛まず継続的に推進してきたことの証でもあります。
今回の受賞は、大判プリンターを室内配置した際のレイアウトについて、令和元年度改正意匠法において新たに保護対象となった「内装の意匠」として戦略的に意匠登録し、それを製品プロモーションにおいて登録事例を紹介するなどして活用したことを評価いただいたものです。お客さまに対するレイアウト意匠の登録事例の紹介はウェブページや展示物を用いて行っています。
「知財功労賞」において評価いただいたポイントは以下の通りです。
- 企業パーパスに基づく長期ビジョンが目指す「持続可能でこころ豊かな社会」の実現のため、知財部門が経営や事業・開発部門と緊密に連携して知財戦略を事業戦略と統合した上で主体的(Proactive)な知財活動を展開している。印刷装置については、知財部門が担当役員との戦略共有に基づき、顧客利用シーンまでを想定した商品デザイン開発に参画し、創出された知的財産権(商品の顧客利用シーンのレイアウト意匠を含む)を取得する活動を展開している。
- 印刷装置においては、印刷装置を配置した顧客利用シーンにて新たな付加価値を創出するようにデザイン開発を行っている。それを踏まえて、印刷装置(単体)の意匠のみならず、改正意匠法を活用して印刷装置が配置されたお客さま利用シーンのレイアウト意匠(内装意匠)のポートフォリオも構築している。
- 販売プロモーションでは、改正意匠法により新たに内装意匠が保護対象となり、印刷装置のレイアウト意匠について大判プリンターの分野で初めて意匠権取得できたことを伝え、お客さまの関心や共感を得る媒体として意匠権を活用し、さらにその活動を他の機器にも広げようとしている。
2024年:『Clarivate Top 100 グローバル・イノベーター 2024』選出
世界第5位にランキング
エプソンは、世界的な情報サービス企業であるクラリベイトPlc(本社:英ロンドン、日本オフィス:東京都港区)が選定する『Clarivate Top 100 グローバル・イノベーター 2024』に選出され、今年初めて発表された順位で世界第5位にランキングされました。エプソンは2012年の初受賞から数え、今回で11回目の選出となります。
■『Clarivate TOP 100 グローバル・イノベーター』とは
世界中の発明データの比較分析を行い、革新力に直接結びつく指標を用いて各特許アイデアの優位性を評価し、グローバルイノベーションエコシステムのトップに位置する、優れたイノベーションパフォーマンスを継続的に発揮している企業や組織を年に一度選出するものです。
2024年:『IAM's 2024 Asia IP Elite』選出
エプソンは、国際的に著名な知的財産メディアのIntellectual Asset Management(以下、IAM)より、"2024 Asia IP Elite"に選出されました。日本企業は当社を含む25社が選定されました。
■『Asia IP Elite』とは
IAMが毎年定量的・定性的な角度から企業・団体を評価し知的財産の価値創造において優れた企業・団体を表彰するものです。知的財産戦略をビジネスの中心に位置付け、知的財産の活用や知的財産による紛争への対処を積極的に行い、知的財産を価値に変換する革新的なアプローチを推進している企業を選出するものです。