デザイナーインタビュー | ひとつの正解にこだわらず、広く挑戦を楽しむ
今回はPデザイン部のIDデザイナー渡来なつみさんです。グッドデザイン・ベスト100を受賞したPaperLabや、デザインへの取り組みについて語ります。
自己紹介
―まずは自己紹介からお願いします。
渡来:2015年入社で、今年で11年目です。大学ではインダストリアルデザインを専攻していました。入社後はプリンターなどのプロダクトデザインを担当していて、当初はずっとプロダクトデザインの仕事をしていくと思っていました。でも2019年頃から空間デザインの案件にも関わるようになり、そこから少しずつ領域が広がっていきました。
―空間のデザインはこれまで経験したことはあったのですか。
渡来:最初は未知の領域で戸惑いました。空間デザインは全く経験がなかったので、手探りで学ぶ毎日でした。でも、わからないからこそ楽しかったですし、周囲の助けを借りながら進めることで、自分の中の引き出しが増えていくのを感じました。

PaperLab(ペーパーラボ)がグッドデザイン・ベスト100を受賞
―その活動領域の広がりのきっかけとなったPaperLabについて教えてください。
渡来:はい。PaperLabは印刷済みの紙から新しい紙を再生するエプソンを代表する環境製品です。私はこのPaperLabの新モデルのデザインを担当しました。世の中に大きなインパクトを与えた初代のPaperLabを、お客さまにもっと身近に感じていただき、オフィスでも使っていただける製品にするために「人と自然との共存を象徴する存在」を目指しました。環境を想う人々が自然と集まってくる、そんな世界観を「シンボルツリー」というコンセプトで表現しました。
―「シンボルツリー」というコンセプトはどこか抽象的ですね。
渡来:そうなんです。最初は「こんな抽象的な言葉で本当にデザインをまとめられるのか?」という不安もありました。でも、製品のあり方を「機能」や「形状」だけでなく「象徴」として捉えたいという気持ちが強かった。そこを社内の関係者に理解してもらうのが大変でしたね。最初はなかなか共感を得られなかったので、自分でコンセプトムービーを作って、「こういう世界観を目指したい」と伝える努力をしました。
―納得してもらうために様々な工夫をされたんですね。
渡来:はい。デザインのコンセプトを説明の資料だけで設計者・技術者など多くの方々に理解・共感してもらうのは難しいので、世界観を動画や伝わりやすい文章で伝えるようにしました。最初は不安でしたが、何度も繰り返し伝えることで少しずつ「シンボルツリー」という言葉が関係する部門の方々にも定着していった感覚がありました。
―製品のディテールにも、コンセプトへの想いが反映されていますね。
渡来:木目の天面や製品正面のLEDのリングの光り方など、自然の心地よさや紙の循環を感じられる要素を入れました。LEDの動きは紙が再生されていくサイクルを表しています。木目も、エプソンの印刷技術を使って環境負荷の少ない方法で再現しています。見た目の美しさだけでなく、エプソンの理念とつながるデザインであることを大切にしました。
―グッドデザイン・ベスト100を受賞されましたね。おめでとうございます。
渡来:はい。でも、実は金賞以上を取る気持ちで挑戦していたんです。最初からチーム全員がその目標を共有していて、難易度の高い開発に挑む中、時には設計担当の方々から「なぜその形が必要なのか?」と厳しく問われることもありましたが、そのたびにコンセプトに立ち戻って説明しました。コンセプトという共通の「軸」があったから、チームで妥協せず前に進めたと思います。
―しかし、結果は惜しくも金賞には届かなかった・・
渡来:正直、悔しかったです。開発メンバーや上層部の方の期待も大きかったので、恩返しのつもりで金賞を取りたかった。でも、それ以上に、あのプロジェクトで「デザインとは何か」を深く考えられたことが大きな財産になりました。結果よりも、そこまでのプロセスで得た学びの方が今は大きいです。
デザインへの向き合い方
―現在はUXデザインの業務にも携わっているとか。
渡来:はい。プリンターを使った地域支援イベントなど、「体験」をデザインする仕事です。プロダクトや空間のデザインとは違い、答えが一つではないのが面白いですね。自分で考え、提案し、動く、そういう自由度の高さにやりがいを感じています。
―仕事の進め方において、大切にしていることはありますか?
渡来:気が利く仕事をすることです。頼まれる前に動く、言われたことの先を考えて行動する。そうした積み重ねが信頼につながると思っています。チームで動くことも多いので、関係者との関係づくりもすごく大切にしています。今では社内で顔を覚えてもらえるようになり、それが仕事の楽しさにもつながっています。
―デザインへの向き合い方にも葛藤があったのでは?
渡来:ありますね。正直、私はコンペで勝負するようなタイプではないと思っていて、スキルへの自信が持てない時期もありました。周囲には、発想力や造形力に長けた人がたくさんいて、「自分には特別な強みがないんじゃないか」と感じることもありました。でも、今は「広く柔軟に対応できるデザイナー」でもいいと思えるようになりました。ひとつの専門を極めるだけが正解ではなく、いろんな領域を横断しながら価値を生み出すこともデザインの形なのだと気づいたんです。
―最後に、就職を考える学生へメッセージをお願いします。
渡来:学生のうちは自分がどんな仕事をするかなんて、なかなかイメージできないと思います。私もそうでした。でも、入社してから見えてくる世界が必ずあります。インターンシップで感じた「この会社の雰囲気が好き」という直感が、今でも自分を支えています。社会人になってからも、わからないことに飛び込む勇気を忘れずに。手探りでも楽しみながら、自分の可能性を広げていってほしいです。

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