部門長対談 | Red Dot賞で評価されたのは、会社全体で積み重ねてきたイノベーション
2026年7月、ドイツの世界最大のデザイン賞の一つ、Red Dot賞の「Design Team of the Year」を受賞したエプソン。その評価は、デザイン部門だけに向けられたものではなく、会社全体で長年積み重ねてきたイノベーションと、ものづくりに携わる人々の協働の成果だと、二人の部門長は語ります。
そして、受賞準備を通して見えてきたエプソンデザインの特徴、そして若いデザイナーとつくりたい将来の組織について語ってもらいました。
自己紹介
それぞれの事業の中で、デザインの可能性を広げる
―まずは、加藤さん、石川さんの現在の役割から教えてください。
加藤:私はプリンティングソリューションズ事業のデザイン部門を担当しています。製品一つひとつのデザインだけでなく、プリンティングに関わるデザインの方向性や、ソリューションセンターなどでの体験まで、チームと議論しながら考えています。事業に近い場所で、デザインがどのような価値を生み出せるかを広く捉える役割です。
石川:私はビジュアルプロダクツ事業のデザイン部門を担当しています。デザインコンセプトづくりに加え、IDやUIといった個別の専門領域を越えて、どのような価値や体験を届けるべきかを考えています。デザイナーがアイデアを出すだけで終わらず、事業の中で実現まで見届けられる環境をつくることも、大切な仕事だと思っています。
評価されたのは、会社全体で積み重ねてきたイノベーション
―今年度、エプソンはドイツRed Dot賞の「Design Team of the Year」を受賞しました。最初に知らせを聞いたときは、どう感じましたか。
加藤:本当に驚きました。とても名誉ある賞ですし、「私たちより先に受賞すべきチームがたくさんあるのでは」と思ったほどです。
石川:私も最初は耳を疑いました。「なぜエプソンなのだろう」という驚きと同時に、世界に向けて自分たちをどう伝えるか、これから大きな準備が始まるなという緊張もありました。
―どういった活動が、受賞につながったのでしょうか。
加藤:もちろん継続的に優れたデザインを生み出してきたデザインの実績もありますが、Red Dotの方々との対話を通じて見えてきたのは、それだけではありませんでした。エプソンが、長い時間をかけて数々の技術革新やものづくりの工夫を積み重ねてきたこと。その姿勢そのものが評価されたのだと受け止めています。デザイン部門だけの成果ではなく、企画、技術、設計、製造、販売など、多くの関係者が一体となって価値を形にしてきた結果です。
石川:私も同じ考えです。エプソンのデザイナーは、自分たちだけが前に出るというより、事業の方向性に深く入り込み、関係する仲間と一緒に最後までつくり切ることを大切にしてきました。そこには、細部まで丁寧につくり込む姿勢があります。派手さではなく、会社全体のものづくりにデザインが自然に溶け込み、価値を高めている。その関係性を含めて評価していただいたのだと思います。
加藤:以前は、デザイン部門が各事業を少し離れたところから支援する時期もありました。今はデザイナーが事業の中に入り、商品化のプロセスに責任を持って関わっています。設計や企画と目標を共有し、理想を一緒に実現しやすくなった。そして今ではそれが自然に行える環境になっています。その変化が、よい成果の積み重ねにつながっているのだと思います。
ドイツの国際的なデザイン賞、Red Dot賞において、優れたデザイン活動を継続的に展開し、高いデザイン品質を発揮したデザインチームに授与される最高位の特別賞です
日本企業としては2000年以来、2社目の受賞になります
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「エプソンデザインとは何か」を、全員で考えた受賞式準備期間
―授賞式や現地での展示の準備は、自分たちを見つめ直す機会にもなったのではないでしょうか。
加藤:正直なところ、準備を始めるまでは「エプソンデザインとは何か」を一言で説明するのは難しいと思っていました。それぞれの事業にデザイナーが入り込み、異なるテーマに向き合っているからです。今回、各部門の取り組みをあらためて持ち寄り整理する中で、エプソンデザインの共通点が少しずつ見えてきました。
プリンターとプロジェクターで目指すものがまったく違うかというと、そうではありません。離れた場所で活動しながらも、会社が大切にしてきたものづくりの考え方によって、緩やかにつながっている。それがエプソンデザインの特徴だと気づきました。
石川:各部門のデザイン思想については、以前から職制間で議論し、共有してきました。ただ、それぞれ異なる事業で課題や優先順位も違うため、一つのストーリーにまとめられるか、正直不安もありました。
ところが、改めて各部門の取り組みを掘り下げると、表現やアプローチは違っても、根底には「省・小・精」に通じる共通の価値観があることを再認識しました。それぞれの個性を活かしながら、エプソンデザインとしての一貫した思想を、一つのストーリーに磨き上げることができたと思います。
―準備には、デザイン部門を横断して多くのメンバーが参加しましたね。
石川:専門性を持つメンバーの力を信じて任せたいと思っていました。もちろん方向性について議論し、難しい注文もしましたが、短期間で想像以上にアイデアを深め、エプソンデザインを形にしてくれました。進捗報告のたびにそのアイデアや表現に驚かされました。
加藤:デザイン部門だけでなく、海外の販売会社や現地スタッフ、サステナビリティやコーポレートコミュニケーションを担うメンバーなど、普段は接点の少ない人たちとも連携しました。展示では、会社の歴史や技術革新、現在の製品を、エプソンの技術を生かして体感できる空間にまとめました。誰か一人の力では到底つくれないものを、グループ全体の力で実現できたことが大きな収穫でした。
外に出たからこそ見えた、信州発のものづくりの独自性
―授賞式を終え、世界に向けてエプソンデザインを発信してみて、何を感じましたか。
石川:受賞した当初は、「どこが評価されて世界一なのだろう」と思いました。でも様々なやりとりや現地で実感したのは、順位というより、エプソンという会社の独自性を評価していただいたということです。外部の方からも言葉にしてもらうことで、自分たちにとって当たり前だったものの価値をより明確に自覚することができました。同時に、ここで止まってはいけないとも感じました。現在地が分かったからこそ、次に何を進化させるかを考え始めています。
加藤:時計づくりを原点に、細部まで丁寧に向き合ってきた姿勢は、私たちにとっては日常です。しかし外に発信すると、それがエプソンならではの特徴として受け止められました。信州の自然の中で、ものづくりにひたむきに向き合っていることにも、海外の方々は強い関心を持たれました。最先端の中心地から離れていることを弱みのように感じることもありますが、むしろ、その環境だからこそ生まれる独自性がある。今回外に問うたことで、その価値が見えてきました。
完成した組織ではない、まだ変化の途中
―今回の経験を、これからの組織づくりにどうつなげていきますか。
加藤:各事業に深く入り込む現在の良さは、これからも大切にします。そのうえで、部門を越えた活動や発想のプロセスを増やし、エプソン全体でのチーム形成や人の成長につなげたい。今回、異なる専門を持つ人が交わることで、短期間でも大きく発想が広がることが分かりました。若いメンバーにも、早い段階からそうした経験ができる場をつくりたいと思っています。
石川:私たちの世代には、若い頃に同じセンター組織で苦労し、一緒に考えた経験があります。今は最初から異なる事業に配属されることも多いので、部門を越えてつながる機会を意識してつくらなければなりません。次の世代のリーダーや若いデザイナーが入り、新しい感性を持ち込むことで、エプソンらしさもさらに磨かれていくはずです。
加藤:エプソンのデザイン組織は、体系化されて完成した組織ではないということです。私たち自身も、考え、試し、変化している途中にいます。だからこそ、エプソンの中で「自分ならこうしたい」「新しいことを始めたい」と提案し、組織そのものを変えていく余地があります。
石川:そして、アイデアだけを渡して終わるのではなく、技術者や企画担当者と一緒に、ものづくりの最後まで責任を持って関われます。チームでよりよいものをつくりたい人にとって、多くの学びと成長の機会がある環境だと思います。

部長のクリエイションとは
―最後に、お二人にとって「部長としてのクリエイション」とは何でしょうか。 この機会にぜひ聞いてほしいと若手のデザイナーからリクエストをもらいました
石川:私にとっては、デザイナーがアイデアを出すだけでなく、事業に深くコミットし、実現まで見届けられる体制や役割をつくることです。それが事業への貢献になり、同時にデザイナーが最もやりがいを感じられる状態にもつながる。組織を変えていくこと自体が、創造的な仕事だと思っています。
加藤:私は、組織やマネジメントを考えることに加え、今も一つひとつの製品の方向性からディテールまで、担当者と議論しています。部門長になると、個別の商品だけでなく、事業に関わる商品や体験全体を見渡して考えられる。責任は重く、複雑ですが、それ以上に面白い仕事です。
石川:私も製品から離れた感覚はありません。事業に近い立場だからこそ見える価値の方向性をデザイン戦略に落とし込み、IDやUIの枠を越えてチームと考えていく。部長が完成形を示すのではなく、メンバーが持つ力をつなぎ、より大きな価値へ育てること。それが、今の私たちのクリエイションなのだと思います。

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