リーダー対談 「エプソンデザインとは何か」を一つの空間に、領域を越えてつくり上げたRed Dot賞特別展

2026年、エプソンはRed Dot賞の「Design Team of the Year 2026」を受賞しました。授賞式に合わせて開催されたのが、エプソンデザインの歩みと考え方を紹介する特別展です。特別展の企画・制作の中心を担った田中さんと中村さんに、展示が出来上がるまでの舞台裏と、プロジェクトを通して見えてきたエプソンデザインについて語ってもらいました。

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自己紹介と今回のプロジェクトについて

―まずは、お二人の普段の業務を教えてください。

田中:VPデザイン部に所属し、ビジュアルプロダクツ事業に関わるコミュニケーションデザインを担当しています。2006年入社です。

中村:私は自動車メーカーで15年間、主に内装デザインに携わった後、エプソンへ入社しました。現在は経営戦略推進部デザインGに所属し、プロダクトデザインを軸に、ビジョンデザインや空間・展示のデザインなどへ活動領域を広げています。

―今回、Red Dot賞でお二人が関わったのは、どのようなプロジェクトだったのでしょうか。

田中:大きく二つあります。一つは、授賞式での映像や音楽、メンバーの登場まで含めたステージ演出。もう一つが、Red Dotミュージアムで行われたエプソンのデザイン特別展です。

中村:いわば、製品ではなく「エプソンのデザイン組織そのもの」を展示する仕事でした。

〈左〉 中村さん(経営戦略推進部デザインG)
〈右〉 田中さん(VPデザイン部)

―難しいテーマですね。この業務を聞いたときに最初に何を感じましたか。

田中:まずは、圧倒的に時間がない(笑)。
受賞の内示を受けたのが4月で、授賞式は7月。実質3カ月ほどしかありませんでした。しかも、会場の規模や、何をどこまで展示できるのかも分かりませんでした。まず「なぜエプソンのデザインが評価されたのか」を、自分たちなりに整理するところから始めました。

中村:私は、すでに評価されたものなのだから、自信を持って現在のエプソンのデザインを見せればいいのではないかと思っていました。何かを新しく取り繕うより、今ある価値をきちんと可視化する。少し強気なくらいでいいのではないか、と。

田中:エプソンはこれまで、さまざまな製品や技術を通して、世界に新しい価値を届けてきました。せっかく世界中の人に見てもらえる機会に、製品をきれいに並べるだけではもったいない。その背景にあるものづくりや、デザインの考え方まで伝えたいと思いました。

事業ではなく、「4つの世界」で捉え直す

―そこで生まれたのが、LIFE/WORK/PRODUCTION/CREATIVEという「4つの世界」ですね。

田中:展示空間が大きく4つのエリアに分かれていたので、それをどう生かすか考えました。最初は、プリンターやプロジェクターといった事業別に展示する方法も検討しました。ただ、それでは各事業の幅広さは伝えられても、エプソンの製品が社会のさまざまな場面に入り込み、互いに交わりながら価値を生み出していることが見えにくい。
そこで、製品カテゴリーではなく、人が暮らす「LIFE」、働く「WORK」、ものをつくる「PRODUCTION」、表現を生み出す「CREATIVE」という、4つの世界で捉え直しました。

中村:事業も製品の形も違いますが、根底には共通する考え方があります。お客様のことを考え、技術を使ってよりよい体験をつくろうとする姿勢。無理にデザインの形をそろえなくても、すでに同じ方向を向いているのではないか、と。
異なる事業の製品を4つの世界の中に並べることで、「エプソンデザインは、すでにつながっている」という事実を見せられた気がします。

―展示全体のコンセプトも、早い段階で話し合ったそうですね。

田中:最初に「何を伝える展示なのか」を言葉で議論し、「精緻なものづくりが放つ彩(いろどり)」というコンセプトを定めました。この軸があったからこそ、それぞれの専門からさまざまなアイデアが出ても、チーム全体の方向が大きくぶれなかったのだと思います。

中村:コンセプトを先に共有したことで、意見の違いが対立にならなかったんですよね。それぞれが自分の専門を生かしながら、「このコンセプトを実現するには何ができるか」と考えました。

エプソンの製品をLIFE/WORK/PRODUCTION/CREATIVEの「4つの世界」で展示

専門性が違うから、アイデアが広がる

―制作の中心となったのは、普段あまり一緒に仕事をしないメンバーだったそうですね。

田中:我々と、もう2人のメンバーで検討しました。普段はそれぞれ異なる事業で仕事をしていて、この4人で一つのプロジェクトに取り組むのは初めてでした。プロダクト、コミュニケーション、グラフィックなど、専門領域も異なります。
今回は特定の事業の展示ではなく、「エプソンデザイン」を伝えることがテーマだったので、それぞれが事業や専門の枠を越えて、一つのゴールに向かうことができたのだと思います。自分の専門はここまで、と線を引くのではなく、企画から実装まで、必要であればデザイン以外のことも含めて、みんなで考えて動いていました。
役割も最初から細かく分けず、プロジェクトの進行や外部との調整は私が担当しましたが、それ以外はそれぞれが自分の専門性を生かして主体的に動く。「全員がリーダー」という感覚に近かったですね。

中村:私はプロダクトデザインが軸なので、田中さんたちから、プロジェクションやプリンティングをどう使えば面白くなるか、というアイデアが自然に出てくることが新鮮でした。単に「こういう空間にしたい」と提案するだけでなく、「この素材なら実現できる」「この機材は社内にある」と、つくり方まで同時に考えている。自分の専門だけでは思いつかないことがたくさんありました。

プロジェクトの中心となった4人
プロダクト、コミュニケーション、グラフィックなどのスペシャリスト

田中:一方で、中村さんは「こんなこともやってみたい」と、どんどん可能性を広げてくれました。時間のないプロジェクトでは、最初から小さくまとめるより、とがったアイデアを出し、そこから磨いていくことが大切です。

中村:アイデアを投げても、田中さんがゴールまで運んでくれるという安心感がありました(笑)。

田中:以前、ブランドに関わる業務やイベントなどを経験していたので、完成までの道筋をある程度イメージできたことは、今回生きたかもしれません。また、過去に各部門が制作した映像を探し、使用許可を取りながら授賞式用の映像へ再構成する場面では、それまで築いてきた社内のつながりにも助けられました。

「Wow!」と驚き、その奥にある思想に触れてもらう

―来場者には、展示空間で何を感じてほしいと考えましたか。

田中:素直に「Wow」と圧倒されてほしいと思いました。まず空間全体のインパクトで興味を持ってもらい、そこから一つひとつの製品や物語を見てもらう設計です。

中村:ただ派手にするのではなく、インパクトと質のバランスを大切にしました。例えば、会場を大胆につなぐ青いカーペットも、単なる装飾や導線ではありません。デザインフィロソフィーから歴代の製品、それらを生み出してきたデザイナーへとつながり、エプソンデザインの歩みを一本の線として表現しています。
そして、その先にはあえて何も印刷されていない部分を残しました。これまで積み重ねてきた歴史の先に、まだ描かれていない未来がある。これからもデザインとものづくりを通じて新しい価値を生み出していく、そんな未来への期待と決意も込めています。

田中:私たち自身が彩りをつくるというより、エプソンの製品を使うお客様が生み出すものによって、世界が彩られていく。その関係まで見せたかったんです。製品を並べるだけでは、そこまでは伝わりません。

―現地で施工中の空間を見たときはいかがでしたか。

田中:第一印象は「ちょうどいい」でした。CGで空間を再現しながら検討していましたが、製品や展示台、映像、カーペットなどのバランスは、実際に会場へ入るまで分かりません。少し不安もありましたが、現地で見て狙い通りだと思えました。

中村:現地では、海外の展示会場ならではのスケール感を実感しました。人を包み込み、体感してもらうには、今回くらいのサイズが適切だったと思います。
展示に対する反応も非常によく、Red Dot賞の関係者からは「今後のDesign Team of the Yearの展示に対するハードルを上げた」という趣旨の評価もいただきました。製品を見せるだけでなく、エプソンデザインの世界観まで体験として伝えられたことを評価していただけたのだと思います。

エプソンデザインが大切にしている「省・小・精」をつたえる展示

展示を通して、エプソンのデザインが「自分ごと」になった

―プロジェクトの前後で、「エプソンデザインとは何か」という捉え方は変わりましたか。

田中:以前は、エプソンデザインというものを、どこか上位にある概念として受け止めていたと思います。今回、それを自分たちで考え、展示として形にしたことで、一気に自分ごとになりました。
振り返ってみると、「エプソンデザインとは何か」を伝えるためにつくった展示でしたが、その制作プロセス自体もエプソンデザインらしかったのかもしれません。
事業も専門も拠点も違うメンバーが集まり、それぞれの強みを持ち寄りながら、必要であれば自分の領域を越えて動く。そうやって一つのゴールに向かい、最後まで形にしていくこと自体が、今回のプロジェクトを通して見えてきたエプソンデザインらしさの一つだと思います。
多くの方から反響をいただいたことも含めて、自分たちがやってきたことへの自信にもつながったと感じます。それはコアメンバーだけではありません。今回、多くの仲間に相談しましたが、みんな本当に協力的でした。細かく説明しなくても、自分の専門から考え、期待以上のものを返してくれる。そうしたデザイナーがエプソンのさまざまな事業や拠点にいることも、今回改めて実感しました。

また、ヨーロッパの販売法人メンバーの存在も非常に大きかったです。日本とヨーロッパで連携しながら、Red Dot賞事務局との調整や現地での準備など、それぞれの立場から一緒になってプロジェクトを前に進めてくれました。距離や役割、言葉を越えて、一つのチームとして動けたことも、今回のプロジェクトでは大きかったと思います。4人だけでつくった展示ではなく、国内外の多くの仲間の力が集まったからこそ実現できたプロジェクトでした。

中村:私は、エプソンが大切にしてきた精緻なものづくりと、そこから生まれる価値の関係を、今回の展示デザインを経て身をもって体験し、理解が深まりました。最近は別の展示にも関わっていますが、仕事が違っても根底にある構図は同じだと感じます。
今では、その大切さを以前より熱く語れるようになりました(笑)。

―最後に、学生やキャリア採用を考えている方へメッセージをお願いします。

田中:今回のプロジェクトでも改めて感じましたが、エプソンには、プロダクト、グラフィック、映像、空間、コミュニケーションなど、さまざまな専門性を持ったデザイナーがいます。私自身、普段の仕事でも初めて取り組むことが多く、一人の視点や能力には限界があると感じています。でも、異なる専門性や考え方を持つ人と一緒に考えることで、可能性はどんどん広がっていく。今回も領域を越えて力を合わせ、最後まで形にすることができました。分からないことに悩む時間も共有しながら、新しいことに挑戦できる。それがエプソンでデザインする面白さの一つだと思います。新しいことを面白がり、まず挑戦してみたいと思う方と、一緒に仕事ができたらうれしいですね。

中村:私は、キャリア採用でエプソンに入りました。エプソンの考え方を理解しながら、外から見てきた視点も忘れない。その両方を持つことを大切にしています。
プロダクトデザインとしてものづくりに深く入り込む一方で、少し視点を上げて、エプソンというブランド全体を見渡して考える。その間を行き来できることが、今の仕事の面白さです。異なる経験や考え方を持つ人と一緒に、分からないことも面白がりながら、新しいことに挑戦していけたらうれしいですね。

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