小型で高画質を実現する光学技術

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小型で高画質を実現する
『MOVERIO』の光学技術

エプソンのスマートグラス『MOVERIO』シリーズは、独自設計の光学エンジンにより、左右それぞれに配したSi-OLEDマイクロディスプレイの高画質映像を目の前に表示。両眼視で大画面かつシースルーでクリアな映像を、小型・軽量なデザインで実現しています。

「小型・軽量で快適なデザイン」と、「大画面で高画質な映像」は、本来、互いにトレードオフの関係性にある設計課題であり、これら2つの課題を両立するためには、数多くの技術開発が必要となりました。

眼鏡のように軽快なかけ心地と、視野いっぱいに広がる迫力の大画面を目指し進化を続ける『MOVERIO』の光学技術を紹介します。

BT40

小さな『MOVERIO』を支える
光学エンジン

『MOVERIO』の光学エンジンは、マイクロディスプレイ、投射レンズ、導光板の3種の部品で構成されています。マイクロディスプレイからの映像光を投射レンズで集光し、導光板で眼前まで映像光を導いたうえで、導光板内のハーフミラーで外光と映像光を重ね合わせることでシースルー表示を可能にしています。エプソンは独自の光学技術で各構成部品の設計を最適化することにより、高い表示品位を実現しています。

『MOVERIO』シリーズの第一世代製品であるBT-100では、直視光学方式を採用しました。この方式は、虫眼鏡をのぞき込むような仕組みで、比較的シンプルな構成で高画質を実現することができます。一方で、目に入射する画角に合わせて光を屈折させる投射レンズは、目から遠ざかるほど、また画角を広げるほど大きくする必要があり、光学ユニットの小型・軽量化が困難でした。

そこで、BT-200以降の後継機種ではレンズを小さくするため、マイクロディスプレイからの光をいったん結合(中間像)したあとに、目の近くで広げるリレー光学系方式を採用しました。これにより、直視光学方式より小型化できるものの、中間像を眼の中に結像させるためのレンズ機能が新たに必要になります。そこで、エプソンでは、独自の光学シミュレーション技術を用いて、導光板光路内に複数の自由曲面を配してレンズ機能も兼ねることで、軽量化を実現しました。

『MOVERIO』の光学エンジン

高い映像品質を可能とした
製造技術

『MOVERIO』シリーズ小型化のキーテクノロジーとなったリレー光学方式。その実現には、いくつもの技術課題を解決し、従来にない高精度の光学エンジン製造技術を確立するという高いハードルがありました。エプソンは長年にわたるプロジェクター製品開発で培った、光学設計・解析技術と独自の製造ノウハウをもとに、それらの課題を一つ一つ解決することで、『MOVERIO』に求められる高い製造技術確立に成功しました。

まず、一つ目の課題は、導光板内の自由曲面の超高精度加工です。マイクロディスプレイからの映像光は導光板の中で何度も反射していくため、高い面精度が無ければ、画質を維持することができません。光学シミュレーションに基づく設計形状を実現するため、導光板の製造で使われる金型にも従来にない高精密加工技術が求められました。エプソンでは、試作した導光板を高精度の3次元形状計測にかけることで微細な形状ずれを端部まで検出し金型補正することにより、導光板自由曲面の超高精度加工を実現しました。

二つ目の課題は、ハーフミラー面の高精度接合です。通常、外光を取り込む導光板の前面は、平面である必要があります。ですが、映像光を取り出すためにハーフミラー面は曲面形状です。歪みの無いシースルーを実現するために、導光板とハーフミラー部を接合し、外光と映像光を重ね合わせる導光板を平面化しています。

リレー光学方式

接合には接着剤を使用していますが、気泡が入らないように試行錯誤を重ねてプロセスを確立しています。もし、導光板の接合で傾きや段差ができてしまうと、外界像が導光板で曲がり、メガネの度が付いた状態のようになります。そうすると、シースルー像がボケたり歪んだりといった弊害が発生します。そのため、接合時には傾きや段差に厳しい規格を設け、高い接合精度が実現できるよう、プロセスを確立することによって、外光に対しても高い品質を確保しています。

三つ目の課題は、自然な両眼視を実現するための左右光学系キャリブレーション(合わせること)です。『MOVERIO』の光学エンジンの特徴の一つに、両眼シースルーがあげられます。左目と右目で表示する映像の位置や輝度、色味に差があると、ユーザーは違和感を覚え、使用中に強い疲労を伴ったり、1つの映像に見えなかったりといった問題が生じます。エプソンでは、製造工程において、一台ずつ焦点位置や輻輳(ふくそう)距離、ディスプレイ輝度や色テーブルといった各種パラメータを調整し、高い映像品質を確保しています。

  • 輻輳(ふくそう)距離とは、物体までの距離

Si-OLEDマイクロディスプレイの
独自配光制御と光学エンジンの
協調設計による小型化

一般に、ディスプレイから出射された光は、パネル垂直方向へコーン状に広がります。明るい映像を表示するためには、より多くの光をレンズに取り込む必要があり、ディスプレイ光が広がる分だけレンズ径を大きくする必要がありました。

この課題に対し、『MOVERIO』シリーズ向けに新規開発した独自のSi-OLEDマイクロディスプレイでは、中心部から周辺部へと、各画素から出射される光の光軸をパネルの中心方向へ傾くようにカスタマイズしています。

本来であれば画素の直上に配置するカラーフィルターを、表示エリアの外周部ではミクロン単位で位置をずらして配置することで、表示エリア周辺部の光軸を中心へ傾け、ディスプレイ光をよりレンズ面に集光する構成となっています。また、集光する光を受けて性能が最大化するように光学エンジン設計を最適化することで、さらなる投射レンズの小型化が可能になりました。

この独自設計によるSi-OLEDマイクロディスプレイの配光制御と光学エンジンの協調設計により、『MOVERIO』シリーズの明るくクリアな映像が小型・軽量な光学エンジン内で実現しています。

  • 光に色をつけるための着色透過シート

数多くの技術開発を通して、さまざまな技術課題を克服してきた『MOVERIO』の光学技術は、ビジネスと生活のあらゆる場面で感動の映像体験をお届けするため、今後もさらなる進化を続けていきます。