高品質な人工水晶製造技術
高品質の人工水晶を作る
高度な製造技術と匠の技
時計や通信機器、コンピューターやデジタルカメラなどの電子機器、そして自動車や携帯電話の基地局の通信ネットワークに至るまで、我々の身のまわりにあるさまざまな機器には、 水晶振動子、水晶発振器といった水晶デバイスが数多く使用されています。この水晶デバイスの原材料に使われるのが、エプソンの製造する人工水晶です。高品質な人工水晶を製造するには、原材料や高度な製造技術だけでなく、安定した生産を支えるための匠の技が欠かせません。水晶デバイスの世界的なリーディングカンパニーの1社であるエプソンの人工水晶製造技術について解説します。
現代社会には無くてはならない
水晶デバイス
水晶に圧力をかけると電気分極が起こり、電圧が発生します。この水晶の持つ特性による現象は「圧電効果」と呼ばれています。逆に、水晶に電圧をかけると変形します(「逆圧電効果」)。この性質を利用して、一定の周波数の信号を安定的に生み出しているのが水晶デバイスです。水晶デバイスによって、周波数の基準信号を作ったり、周波数を選択したりできます。例えば、無線LANやスマートフォンといった複数の通信機器間で通信する際、同期信号を出して接続などのタイミングを制御することや、電子機器の内蔵時計の時間を正確に保つには、水晶デバイスが必要になります。他にも、速度や動きの変化を捉えるセンサーなどにも水晶デバイスが使われています。水晶デバイスは「産業の塩」ともよばれ、現代社会には無くてはならない存在と言えます。
水晶デバイスの製造には、不純物の少ない高品質な水晶の塊を使います。かつては、鉱山から採掘された天然の水晶を使って作られていました。しかし、天然の水晶は、地球が何万年もの歳月をかけて作られたものであり、水晶デバイスの製造に使えるほどの大きな塊は非常に貴重なものです。また、天然のものは不純物が入りやすく、そのような水晶は、大きくても製造には向きません。そこで考えられたのが人工水晶です。
人工水晶はどのようにつくられるのか
人工水晶は1905年にイタリアで初めて作られました。日本では、1954年に山梨大学で、小型オートクレーブ(高温高圧炉)を用いてその製造に成功しています。
人工水晶の製造では、原材料として天然水晶のかけらである「ラスカ」と、水晶の核となる種水晶を用います。人工水晶の製造に用いられるオートクレーブは、上下の領域に分かれた円筒状の釜が内部に設けられています。 まず、ラスカを洗浄乾燥させて、釜の下半分の溶解域に入れます。上半分の成長域には短冊状の種水晶を吊るし、釜内に水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液を入れます。この状態で蓋をして、釜内部を高温高圧に保ちます。このとき、オートクレーブ上部の成長域の温度は、下部の溶解域よりも低く設定します。このようにすることで、ラスカがアルカリ水溶液に溶けてSiO2の飽和溶液となり、上下の温度差で自然対流が発生して飽和溶液が上部の成長域に上がります。上がった飽和溶液は温度が下がるので過飽和となり、種水晶にSiO2が付着して大きく成長していきます。
大型オートクレーブによる
人工水晶製造
エプソンでは1950年代後半から人工水晶の工業生産を目指して研究開発を開始しました。1960年代に入り、本格的に人工水晶の工業生産を開始します。製造当初の人工水晶は、天然水晶の品質にはまだ及ばず、原料や温度・圧力などの製造条件、釜の内部構造といった製造設備の見直しを繰り返す日々でした。やがて、人工水晶は天然水晶と同等以上の品質を持ち、安定した製造が出来るようになります。
現在製造に使われているオートクレーブは、4~5階建て建物ほどの高さがある大型装置です。その装置で360度、1100~1700気圧もの高温高圧力をかけて、大型で高品質な人工水晶を育成させていきます。 その期間は2~6カ月にもなり、わずかな温度変化や圧力変化でも、品質に影響するため、厳しく管理を行い内部の状態を維持します。完成後は、熟練の作業員により慎重に釜から引き揚げられ、品質のチェックを行い、製品として加工されていきます。
今では、エプソンは世界有数の人工水晶メーカーに成長しました。エプソンの製造する人工水晶は、エプソン製の各種水晶デバイスの製造はもちろん、世界中の通信機器や電子機器メーカーの製品に使われています。
高度な製造技術と匠の技により実現する
エプソンの人工水晶製造
高品質な人工水晶を製造するためには、原材料や種水晶の質、釜の性能、人により適切に管理調整された製造条件の他に、装置を最良の状態にするための匠の技も必要です。例えば、人工水晶の製造において、オートクレーブの釜は最も重要な要素です。高温高圧状態を安全に最大6カ月保持するには、シール面のわずかな歪みも許されません。使用後はシール面の精密修正加工を行う必要があります。これにはミクロン単位の精度が要求され、最終的には手作業で仕上げが行われています。ここにエプソンの技術者の匠の技が用いられています。
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エプソンでは、黄綬褒章を受章した技術者をはじめ、多くの匠の技をもつ技術者が在籍し、人工水晶の製造現場の他、各現場で活躍しています。製造ラインを支える技術者育成の各種研修も年間通して開催し、次の時代を担う匠の育成にも力をいれています。
高度な製造技術に加え、多くの技術者と積み上げられた匠の技により、安定した高品質の人工水晶の製造が実現されているのです。