デザイナーインタビュー | 「魔改造の夜」で訴求する、「デザインにできること」

2025年9月25日と10月30日にNHK総合にて放送された「魔改造の夜」に、エプソンは「Eプソン」として出場しました。この番組は有名企業や町工場、大学などが、玩具や日用家電などをお題に合わせ改造し、その改造スペックを競う技術開発エンタメ番組です。
今回は、第一夜「ブランコ25m走」競技のデザイン担当として参加した、技術開発本部デザイン開発グループの浜崎寧々さんにインタビュー。プロジェクトにおけるデザインの役割について語ります。

突然決まったNHK「魔改造の夜」への参加

―まずは自己紹介からお願いします。

浜崎:浜崎寧々と申します。エプソンに中途入社して3年ほどになります。前職は地方紙などを制作する会社のグラフィックデザインをしていましたが、もっと幅広い領域でデザインに向き合いたいと思い、エプソンに転職しました。
現在は技術開発本部のデザイン部門でアプリのUIや社内グラフィックなどのデザインを担当しています。

―NHK「魔改造の夜」への参加は突然だったとか。

浜崎:そうなんです。ある日、上司に「頼みたいことがある」と声をかけられて(笑)。プロジェクト内で「デザイナーが必要では?」という話が出ていたようで、推薦をいただきました。

―どのような役割を期待されていたのでしょう?

浜崎:ロゴや外観デザインだけでなく、「デザインの視点でメンバーのモチベーションを高めてほしい」という期待を感じました。私は以前から、デザインは単なる見た目ではなく、さまざまな場面で人にポジティブな変化をもたらせると信じていたものの、日々の業務ではその可能性を十分に発揮できず、もどかしく感じていました。だからこそ、今回その期待を寄せてもらえたことは、不安もある反面、嬉しくもありました。

短期決戦で見せた、デザインの可能性

―最初に作ったものはトレカ風のメンバー表だったそうですね。

浜崎:はい。チームメンバーはさまざまな部署から集まっていて、ほとんどが初対面でした。そこで、まずはお互いを知るきっかけとしてトレカ風のメンバー表を作りました。
遊び心のあるアイテムを作ることで「このプロジェクト、面白くなりそう」と感じてもらい、チームの温度を上げたいと思ったんです。

―1か月という短い期間で、他にどんなことをしてきたんですか?

浜崎:目標を掲示して作業室を演出したり、リーダーがリサーチした近隣のブランコを「ブランコめぐりカード」にまとめたり、最終決戦の前日には思い出動画をサプライズで流したりと、「メンバーが喜ぶかも」と思うことは全部やりました。
メンバーが自覚していない「こういうのがあればいいな」を先回りして形にし、さらに期待を越えるものに仕上げる。こうした潜在的な思いを可視化することも、デザインの可能性のひとつだと感じました。

トレカ風のメンバープロフィール

チームの誇りを形にする

―番組に使われる機体の羽根やロゴが印象に残っています。

浜崎:「スワング(SWANG)」という名前は、もともと諏訪とスイングを掛け合わせたものでしたが、私はそこにスワン(白鳥)のイメージを加えることにしました。羽根を付ける案には賛否があり、みんなで作り上げてきた大切なメカの雰囲気を損ねてしまわないかという不安もありました。
それでも、見る人の記憶に残ることが結果としてメンバーの喜びにつながると思ったことと、メンバーが私に決定を委ねてくれたことが後押しになり、採用しました。
結果的にその羽根がアイデンティティーとなり、「白鳥のメカ」として覚えてもらえるきっかけになりましたし、メンバーも気に入ってくれているので、良かったです。

―苦労した部分も多かったのでは?

浜崎:はい。テレビ番組はエンタメ性が必要ですが、エプソンには真面目で控えめな企業文化がある。その差をどう埋めるか悩みました。でも中間ミーティングでメンバーが「もっと自由にやっていいよ」と言ってくれて、そこから吹っ切れました。
今となっては、もっとブッ飛んでも良かったのかもと思っています(笑)

―放送後に解説資料を作成したとか。

浜崎:はい。技術解説集(スワング解体新書)は、チームの自主制作として作りました。仲間と積み上げた努力を形に残し、「自分たちは全力でやりきった」と胸を張って発信できるものにしたいと思ったのがきっかけです。
また制作では、分かりやすさを大切にしました。エンジニアの資料は正確ですが、どうしても専門的で難しい部分があるので、自分で内容を理解し、図解やかみ砕いた説明に置き換えていきました。
デザインは情報の翻訳でもあると考えています。複雑なものを直感的に理解できる形にすることで、技術者の想いがより多くの人に届く。そんな橋渡し役になりたいと思っています。

「好き」と向き合う姿勢が、デザインを強くする

―最後に入社希望者へのメッセージをお願いします。

浜崎:就活で人生は決まりません。今一番やりたいと思うことに向かって動けばいいし、もし変わったらまた進路を変えればいい。
私自身、大学卒業後は「長期的に働く場所を決める」より、そのとき興味をもったことを選び、周りとは少し違う進路を歩んできました。周囲が順調にキャリアを築いていく姿に焦りや不安を感じることもありましたが、振り返れば、興味のあることをいろいろ試してきた性格は、私らしさをつくった大切な土台になったと思います。
大切なのは、「好き」に対して正直であること。好きでいられるからこそ、手を抜かず、想像を超えるものにしたくなる。デザインはその積み重ねだと思います。

浜崎さんの話から浮かび上がるのは、「デザインを通して人を喜ばせたい」という揺るぎない姿勢。
見えない空気を変え、技術を翻訳し、仲間の誇りを形にする。彼女のデザインは、単なる色や形ではなく「心を動かす行為」そのものだ。

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