YUIMA NAKAZATOと創るファッションの未来
2023年7月5日にフランスで行われた、パリオートクチュールファッションウィーク2023‐24年秋冬コレクションにて、エプソンはYUIMA NAKAZATOの新コレクション「MAGMA」の制作の一部をサポートしました。
パートナーシップ締結後の前回春夏コレクションに続き、エプソンのデジタル捺染機による衣装プリント、ドライファイバーテクノロジー*1による使用済み衣服を用いた不織布の作成、中里氏が撮影した写真の紙へのプリントを用いた会場造作の3点で、当社の技術が活用されています。
今回のコレクション
今回のコレクションのテーマは、以下中里氏のコメントの通りです。
2022年に訪れたケニアでの衝撃は、今も私の中で続いている。 ナイロビのゴミの山が脳裏から離れない。自然発火する炎に腐敗臭、プラスチックのカラフルな色彩が入り混じり、まるでこの世の終わりを具現化したような景色にめまいがした。
北斎による富嶽三十六景凱風快晴、通称「赤富士」は、富士山を見慣れた青や白ではなく、太陽の光で赤く染めることにより、その優美な姿を印象強くさせるだけでなく、内に秘める火山を彷彿させ、不気味さと共に被写体のもう一つの側面を浮かび上がらせる。私は、ケニアで撮影したゴミ山の画像を赤色に変換してみた。見るに耐えぬ光景は抽象的になり、まるで花のようでもあるし、上空から見下ろす地形図のようにも見える。人工的であるはずのゴミたちはまるで自然の風景の一部を切り取ったかのように見えた。ゴミとは 一体何だろうか。その固定概念が崩れていくようであった。
赤色は警鐘や危機を表す色。しかし私は環境問題へのアラートというよりも、未来を変えていく方法はきっとある、その前向きな感情の高まりを赤い色に込めたいと思う。
中里唯馬
そのコンセプト、デザインを本コレクションに昇華するため、エプソンとYUIMA NAKAZATOは4月より準備を進めてきました。中里氏は、エプソンソリューションセンター富士見を訪れ、風合いの向上や中里氏のデッサンの色使いを忠実に再現すべくディスカッションを重ね、完成度を高めてきました。
衣装の品質と環境負荷低減を追求
従来から中里氏は衣装プリントに顔料インクを用い、プリント後の蒸しと洗い工程が不要で、水の使用量を抑えながら加工するという制作のプロセスにもこだわっています。制作の一部で使用したエプソンの新型デジタル捺染機「ML-13000(プロトタイプ)」は、従来のアナログ染料捺染に比べ水使用量を96%削減*2できる顔料インクプロセスに加え、デジタル捺染で必要となる前処理も捺染機の内部で行うことができ、生産効率を引き上げるとともに、環境負荷低減も大きく進化させています。本製品は、インクだけでなく3種類の液体を必要な分量のみ生地に吐出することが可能で、従来のコレクションの衣装に対し、発色性、耐擦性、柔軟性を高めました。
これにより、中里氏の赤のデザインを際立てつつ、シルクオーガンジーの持つ風合いの柔らかさを生かした衣装を完成させています。
*2 出典:Fuluhashi Environmental Institute, 2021 "Report on Direct Water Input in Digital Textile Printing"
ドライファイバーテクノロジー*1を使った不織布の進化
前回のコレクションでも使用した古着からつくられた不織布を、今回のコレクションでも新たに作成しました。中里氏が世界各地から廃棄される衣服が多く集まるアフリカ・ケニアを訪れて回収した古着をドライファイバーテクノロジー*1を使って衣装にアップサイクルしました。
中里氏が希望された風合いと強度の改善に応えるため、生地の薄さに挑戦しつつ、プレス加工を施し不織布の進化を実現しました。今回の衣装の一部はその生地に黒一色のデザインをデジタル捺染機でプリントされたものが使われております。
コレクション会場の造作プリント
会場一面に敷かれた床プリントと会場に吊るされた空間造作にもエプソンのデジタルプリント技術が活用されました。
床プリントは、赤色に変換されたケニアの写真をエプソン広丘事業所ソリューションセンターLFPでプリントテストとカラーマネジメントを実施した後、コレクション会場に近いパリ近郊の印刷業者でマット紙にプリントし、会場に届けられました。
*1 水をほとんど使用せず、多様な素材を繊維化し高機能化し高性能化するエプソン独自の技術。詳細はこちらをご確認ください。