1970年 希土類ボンド磁石「SAM-D」
製品特長
当社磁石事業の先駆けとなった、サマリウム・コバルト系希土類ボンド磁石「SAM-D」。クオーツウオッチのステップモータ用ローター磁石として1970年に開発された、この希土類ボンド磁石は、寸法精度が高く、形状自由度に富むものでした。また、強度も高く、コスト面でもそれまでの焼結法を用いる磁石より優れており、小型強力磁石を必要とする分野において、大いにその活躍を期待された商品でした。
クオーツウオッチのように、小さなスペースに用いられる磁石には、優れた磁気特性と加工性が必要です。それまでにあった、サマリウムなどの希土とコバルトの化合物は、理論上極めて優れた磁気的性質が認められていましたが、硬くてもろいという性質がありました。そこで、サマリウムとコバルトの化合物の粉末を固める際、粉末間に適度な柔軟性と強度を与えるために、磁石粉末を樹脂で固着する新しい粉末結合法(樹脂結合法=ボンド法)を開発。優れた磁気特性と加工性を合わせ持つ、SmCo5系ボンド磁石「SAM-D」を誕生させたのです。
また、SAM-Dは他部品と一緒に成形することができるため、ローター磁石用に磁石成形する際、金属部品を同時加工できました。そのため、精度よく量産できるようになり、白金-コバルトを用いる場合に比べほぼ同じ性能を持ちながら、材料のコストは約20分の1(体積比)程度まで削減。クオーツウオッチのコストダウンに、大きく寄与することができたのです。
誕生の背景
1969年12月、当社は世界に先駆けてクオーツウオッチの商品化に成功。その過程での素材の自社開発が、希土類ボンド磁石の開発のスタートでした。それまで、クオーツウオッチのローター磁石には、高価な貴金属を主成分とする白金-コバルト磁石が用いられていました。しかし、高コストなため、クオーツウオッチの商品化とともに、高性能低価格な磁石開発のニーズが高まりました。そこで当社は、テンプ磁石用として先に開発されていた「SAM」磁石をベースに、次なる希土類ボンド磁石の開発に着手。1970年、新しい製造技術を用いた「SAM-D」が誕生したのでした。
成果と反響
小型ながら優れた磁力、加工性を合わせ持った「SAM-D」は、1976年から小型音響機器、OA機器など、クオーツウオッチ以外の分野でも利用されるようになりました。さらに数年後、クオーツウオッチの開発競争は小型化・薄型化に拍車がかかり、それにあわせて、磁石においてもさらなる高性能化が求められるようになったのでした。そこで、また新たな希土類ボンド磁石の開発がスタート。それまでの「SAM-D」よりも高性能な、Sm2Co17「SAM-DH」の誕生(1979年開発発表、1981年商品化)へとつながり、当社の磁石事業を発展させるベースとなったのでした。