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未来を描くイノベーション
ドライファイバーテクノロジー。

印刷された紙の困りごとは何か。
2つの視点で見えた開発の切り口。

2010年、当時の代表取締役社長は、一つの問いを技術開発チームへ投げかけました。

それは「世の中の流れを見ると、印刷された紙についても何か困りごとがあり、プリンティングのリーディングカンパニーとして、我々にできることがあるのではないか」という内容でした。

そこで当時、技術開発チームのリーダーだった市川和弘は役所や企業のオフィス、金融機関を訪問。その中で印刷された紙がどのように使われ、処理されるのかを観察し続けたのです。

観察を通して見えてきたのは、印刷されるものは機密文書が多く、使用後の処理は外部業者に委託しており費用もかかっていること。そして、その現状にお客様が満足していないことでした。

同時に、製紙工場や工業試験場も訪れ、紙の製造工程からリサイクルまでさまざまな角度から調査を実施していきます。その調査から、水質汚染のリスクを回避しながら紙を再生するためには大量の水が必要であり、廃水処理には多くの費用がかかっていることを知りました。また、世界に目を向けてみると、すべての地域で潤沢な水資源があるわけではなく、紙の再生にも課題があることがわかったのです。

機密保持と資源循環の両立ができないか。このポイントに新たな開発のチャンスを見出していきました。

印刷された紙の困りごとは何か。2つの視点で見えた開発の切り口。

新たな挑戦。
いかに水を使わずに再生紙をつくるか。

課題が明確になった後、いかに水を使わずに上質な紙を再生するかに着目し、技術開発チームはさらに開発を進めていきました。

しかし、実現に向けては多くの苦労を伴いました。紙を繊維化するにも、細かくし過ぎてしまうと紙の繊維が切られてしまい高品質の紙が再生できない。試行錯誤が続きました。すり鉢で紙を擦る、ミキサーで紙を粉砕する、100種類以上の実験を繰り返しても解決策にはたどり着きませんでした。

突破口となったのは、市川が和紙を指でちぎった際に、切れた部分から繊維が出てどんどん繊維がほぐれることに気づいた時でした。
「切る、擦る、つぶすのではなくて、ほぐせば良いのかもしれない」と市川は思ったのです。

その「ほぐす」というヒントから開発が進み、印刷された情報を完全に抹消した上で、紙を原料として新たな紙を生み出すエプソン独自の技術「ドライファイバーテクノロジー」が誕生します。
そして、この技術が世の中に受け入れられるのかを検証するため、水を使わず(注1)使用済みの紙から新たな紙を生み出す世界初(注2)の乾式オフィス製紙機「PaperLab」の開発品を2015年の環境展示会に出展。周囲から大反響を呼びました。

新たな挑戦。いかに水を使わずに再生紙をつくるか。

「ドライファイバーテクノロジー」で
広がる
アップサイクルの可能性

「ドライファイバーテクノロジー」は、用途に合わせた繊維化や結合、成形を行うだけでなく、今までできなかった処理や加工を可能にし、廃棄物を減らすことや新しい材料特性を生み出すことができるのです。

PaperLabによって生まれたのは、再生紙だけではなく、新しい価値。「リサイクル」ではなく、「アップサイクル」の提案こそ、「ドライファイバーテクノロジー」を通じてエプソンが実現したかった社会への貢献なのです。

これまでリサイクル技術は、再生して価値が下がるものと捉えられていることが多く、再生することによって価値が上がるという技術は少なかったのです。しかし、新しい価値を生み出す、アップサイクルが主流となる文化をエプソンは広げていきたいと考えています。

そして、「ドライファイバーテクノロジー」によりごみとして処理されていたものに価値を与え、環境への負荷を減らすものづくりの実現に向けて取り組みを進めています。

「ドライファイバーテクノロジー」で広がるアップサイクルの可能性

これから私たちができることは何か。
持続可能でこころ豊かな社会の実現へ。

現在、エプソンの考え方に共感してくださっているさまざまなパートナーと、「ドライファイバーテクノロジー」の技術を応用し、紙以外の原料を含めたアップサイクルの研究開発を進めています。

環境負荷低減に貢献すべく、「ドライファイバーテクノロジー」を活用し、例えば石油を使うプラスチックのような材料を、新たな材料に置き換えていきたいとも考えています。


私たちは、これからも持続可能でこころ豊かな社会の実現へ向けた技術や製品、ソリューションを開発していきます。


(注1)機器内の湿度を保つために、少量の水は使用する
(注2)2016年11月時点、乾式のオフィス製紙機において - エプソン調べ-

これから私たちができることは何か。持続可能でこころ豊かな社会の実現へ。
印刷された紙の困りごとは何か。2つの視点で見えた開発の切り口。
新たな挑戦。いかに水を使わずに再生紙をつくるか。
「ドライファイバーテクノロジー」で広がるアップサイクルの可能性
これから私たちができることは何か。持続可能でこころ豊かな社会の実現へ。
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