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ピエゾ方式から始まった
プリンティングの革新。
続いていく技術の進化と
社会への貢献。

プリンティング事業の挑戦。
独自のインクジェット技術
「マイクロピエゾ技術」への追求。

セイコーエプソン株式会社(以下エプソン)のプリンティング事業の成長は、「マイクロピエゾプリントヘッド」と呼ばれるインクジェットプリンターのコア技術が導いたと言えるでしょう。この技術が、他社にはないエプソンのインクジェット技術の唯一無二の特徴となっています。

インクジェットプリント技術は、用紙などのメディアに対し、超微小なインク滴を直接飛ばして印刷する仕組みです。もともとは熱を使うサーマル方式のインクジェットが一般的でしたが、私たちはピエゾ方式にこだわり、その技術を進化させてきました。

ピエゾ方式とは、電圧をかけると変形する物質(ピエゾ素子)の力でインクを吐出させる方法です。熱を使わずに制御をするため、インク対応性が柔軟であり、高い耐久性が実現可能。精密かつ正確なインク滴コントロールを可能にし、高画質と高速性を両立できることが特徴です。

1984年に発売したエプソン初のインクジェットプリンター「IP-130K」(注)にもピエゾ方式を採用しており、ビジネス機として好評を博しました。そのピエゾ方式をさらに進化させ、エプソン独自の方式としたものがマイクロピエゾ技術です。

マイクロピエゾ方式にたどり着くまでの道のりは、実に険しいものでした。そこには、何度も壁にぶつかりながらも研究開発を重ねた挑戦がありました。

プリンティング事業の挑戦。独自のインクジェット技術「マイクロピエゾ技術」への追求。

初めて見えた、
マイクロピエゾ技術誕生の道筋。

1980年頃、エプソン初のドットマトリックスプリンター「TP-80」(1979年)や、パソコン用プリンター「MP-80」(1980年)といった製品が市場で高い評価を得て、エプソンのプリンティング事業は急成長していました。

しかし、1984年に競合他社が発売したレーザープリンターをきっかけに、一気に市場の状況が変わります。レーザープリンターの印字品質やスピードに比べると、ドットマトリックスプリンターの優位性が高くなかったのです。当時のプリンティング事業部は、このままではエプソンのプリンティング事業が立ちゆかなくなるという危機感すら持っていました。

そんな状況の中、ピエゾにまつわるひとつの偶然によって、乗り越える糸口を見つけることができたのです。

1989年、欧州の企業がドットマトリクスプリンターの印字ヘッド駆動用アクチュエーターとして、ピエゾ素子をエプソンへ提案。その時に同席していた開発メンバーが、本来の使い方とは異なりますが、ピエゾ素子をピエゾ方式プリンターに応用することを思いついたのです。これがエプソンにとってマイクロピエゾ技術開発に向けた大きな一歩となります。

それまでピエゾ方式において難点になっていた駆動電圧の高さとピエゾの変形量の少なさという課題も、ピエゾ素子を重ね合わせた積層ピエゾ素子であれば低電圧で高い変形量が得られることが分かったのです。

この発見によって、エプソンはレーザープリンターとサーマル方式のインクジェットプリンターに対抗できる技術を確立します。

乗り越えた壁。今なお進化し続ける
「マイクロピエゾヘッド」と社会とのつながり。

マイクロピエゾ技術の実現に向けては、その開発に大きな課題がありました。

そもそもピエゾ素子はセラミックなので、レンガのように焼き上げ、それを薄くスライスし、さらに研磨してつくるのが従来の方法です。しかし、セラミックは焼き上げてしまうと非常にもろくなるため、ピエゾ素子を一定以下の薄さにすると割れてしまうという技術上の課題がありました。

そこで開発メンバーが考えたのが、セラミックコンデンサーのように、20マイクロメートル程度の薄い層に何枚も重ねたピエゾ素子をつくり上げ、適切な形状にカットしていくダイシングを行いひとつのアクチュエーターにするという方法です。焼き上げる前に構造体として作ってしまい、ピエゾ素子を短冊状に積層することで、薄いピエゾ素子を実現させたのです。これは、それまでのピエゾ方式の常識を覆すアイデアでした。

このように試行錯誤を繰り返して、ピエゾ素子を薄くし、ヘッドを小型化することができたのが「マイクロピエゾプリントヘッド」です。

1990年から開発をスタートさせ、1992年末には量産できるまでになりました。1993年には「マイクロピエゾプリントヘッド」を搭載した第1号製品として、モノクロインクジェットプリンター「MJ-500」を発売。

マイクロピエゾ技術は、さらに発展していきます。
ピエゾ素子がダメージを受けず生産性が高いML Chips(Multi-Layer Ceramic with Hyper Integrated Piezo Segments)や、ピエゾを究極まで薄くしたヘッド技術TFP(Thin Film Piezo)、高速・高画質を叶えたPrecisionCore(プレシジョンコア)へと「マイクロピエゾプリントヘッド」を進化させていきました。

高性能・高精度・高速・高画質な印刷を可能にし、省電力のため環境にも配慮。商業や産業、オフィスなどの領域にたちまち拡大していきました。

「マイクロピエゾプリントヘッド」は、さらに進化する可能性を秘めています。よりコンパクトかつ高密度にすることによってコスト削減しながら高画質な印刷を可能に。さらに、ノズル数を増やすことで印刷速度を高められるなど、多くのニーズに応えることができます。それにより商業・産業インクジェントプリンターとして、より信頼性の高いプリンターの提供が可能になっていくのです。

エプソンのマイクロピエゾ技術の進化は、未来に向けて止まることはありません。

(注)海外では「SQ-2000」で販売
参考文献:大河原克行・著(2015年) 『究め極めた「省・小・精」が未来を拓く』 ダイヤモンド社

乗り越えた壁。今なお進化し続ける「マイクロピエゾヘッド」と社会とのつながり。
プリンティング事業の挑戦。独自のインクジェット技術「マイクロピエゾ技術」への追求。
乗り越えた壁。今なお進化し続ける「マイクロピエゾヘッド」と社会とのつながり。
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