商品開発事例

エプソンは商品・サービス、生産、販売の全てを通じ、お客様に期待以上の満足をしていただくために、さまざまな活動を行っています。その代表的な活動事例を紹介します。
企画段階においては設計者が自らお客様の現場に伺い、感想や困り事などを直接お聞きしたり、インフォメーションセンターに寄せられた声を分析したりして、お客様の期待に応える商品企画を行っています。

現場での作業性、効率化の向上  SC-F2100シリーズ

2013年、エプソンとして新規領域となるTシャツやトートバッグなどの綿布地に印刷できるガーメントプリンターを市場へ投入し、その後継機種を2018年3月にリリースしました。この後継機種「SC-F2100シリーズ」には、約4年半販売して新たに分かったお客様の要望を反映し、現場での作業性、効率性を向上させています。

生地のセットが煩わしい

Tシャツなどの印刷生地のセットに時間がかかり、煩わしいとの声がありました。
そこで、金属枠によるセット方法から、布シートによる生地固定方法を考案し、セット時間が約30秒から半減し、かつ生地の膨張を抑制できました。

印刷スピードを速くしてほしい

従来は、発色性を優先し、白色を2層印刷して生地の色を遮蔽し、3層目でカラーを印刷していました。
しかし、市場調査から高い発色性を求めるお客様と、より速い印刷で生産性を望むお客様がいることが分かりました。両方のニーズに対応するため、1層目に白色を印刷し、2層目にカラーと白色を同時に印刷できる高速印刷モードを開発しました。これにより、発色性の低下を最小限に抑えつつ、印刷スピードを約33%向上させました。

待ち時間を短くしてほしい

白インクに含まれる成分が沈降しないように、従来商品では毎日、最大約10分間、自動的に白インクを循環させていました。そのため、お客様が印刷をしたい時に循環が始まってしまい、印刷待ち時間が生じることがありました。
ワークフロー分析の結果から、印刷直後の約20秒(生地をプリンターから外し次の生地をセットするタイミング)の間に循環作業を分散させるプログラムを構築したことで、お客様に循環による待ち時間を感じさせないようにしました。

待ち時間を短くして、きれいに印刷したい

濃色生地への印刷では、白インクを生地に浸透させないために、表面に定着する前処理剤を塗布します。しかし、生地自体を着色している染料と前処理剤が反応し、染みのような「前処理痕」が発生し、クレームとなることがありました。
前処理痕は当社だけでなくガーメントプリンター業界全体の課題でしたが、生地の染料との反応を抑制する有効な材料を特定し前処理剤に配合しました。配合にあたっては、世界中のメーカー生地(150種以上)でお客様の使用環境を想定した検証実験を行いました。

大容量インクタンク搭載プリンターのインク注入に関する困り事の改善

2010年にインドネシアで発売を開始した大容量インクタンク搭載プリンターは、新興国を中心に低コストで大量に印刷したいお客様からの支持を集め、2017年度までに約150の国と地域に販売エリアが拡大してきました。先進国含めた市場獲得に向け、お客様へのヒアリングや販売会社との話し合いからインク注入時に手が汚れるなど、お客様の困り事の解決を図りました。

困り事1

中ぶたシールの剥離やボトルを傾けた時にインクがこぼれ手などを汚す

対応

中ぶたシールをなくした密封性の高いボトルキャップを採用し、ボトルの注ぎ口にスリット型の弁を設けることで、インク垂れを防止した

困り事2

50回程ボトルを圧搾する必要があり、その作業に2分程度かかる

対応

ボトルとプリンターのインク注入口の形状を変更することで、ボトルをインクタンクに差すだけで、インクの注入が開始され、約40秒程度でインクタンクが満タンになると自動的に注入が停止するようにした

困り事3

間違った色のインクを注入してしまう

対応

インクボトルの先端部の形状を鍵に、タンクを鍵穴にすることで、同じ色しか差し込めないようにした

新たな力覚センサーによる製造現場の革新

ものづくりの現場では、人材不足解消や生産性向上のために、人の手による組み立てから、ロボットによる自動組立へのシフトが急速に進んでいます。しかし、壊れやすい部品の扱いや微妙な調整を必要とする難易度の高い精密作業には、いまだに人の感覚に頼っている領域も多くあります。エプソンは従来、熟練者でないと不可能とされていた精密かつ複雑な作業を、新たに開発した力覚センサー「S250シリーズ」をロボットに搭載することで可能としました。
力覚センサーとは、ロボットのアームにかかる力の向きや大きさなどを読み取り、ロボットの動作を高精度に制御するための機器です。これを用いることにより、ロボットに力の感覚を与え、従来は人に頼っていた作業をロボットに置き換えることが可能になります。

私たちは、エプソンのロボットを導入していただいているお客様数十社を訪問し、困り事を調査したところ、現状ではロボットへの置き換えが難しい作業に対しても自動化の要望が多くあることが分かりました。従来の力覚センサーの多くは、ものを押したときに生じるセンサー内の部品の変形量(ひずみ)を計測しています。しかし、これらの計測の感度を高めるためには、力覚センサーの仕組み上、センサーを変形しやすくする必要があります。センサーを変形しやすくすると、軽い力で変形してしまうため、その先に固定されているロボットハンドの位置が定まらなくなります。一方で、センサーを変形しにくくすると、感度が低くなり、小さな力を精度よく計測することができなくなります。そのため、ロボットハンドの高い位置精度と微小な力の計測を要求される緻密な作業、例えば狭い隙間に、壊れやすい部品を挿入するような作業はロボットに置き換えることができませんでした。この問題を解決するためには、変形量が小さく、かつ高感度であるという、相反する特性を兼ね備えた新たな力覚センサーの開発が必要になります。

力覚センサー 「S250シリーズ」

エプソンは、この「変形量が小さく高感度な力覚センサー」の実現のために、自社が得意とする水晶デバイスを活用しました。水晶には極めて小さい圧力の変化を検知でき、変形も小さいという特性があります。この特性を応用することで、従来の力覚センサーよりも格段に感度が高く、変形量も小さい、お客様が求める力覚センサーを実現することができました。
この新たな力覚センサーにより、これまで人作業に頼らざるを得ず、自動化が困難とされていた作業を実現できるようになりました。
・細い電子部品の端子など壊れやすい部品の高精度な組み立て
・繊細な部品や自動車関連部品の挿入などの極めて隙間の狭い高度なはめ合い作業
・力加減の難しい研磨などの加工作業

この力覚センサー「S250シリーズ」は、水晶素子を設計し製造できる事業や材料の分析技術、そしてロボットを活用する生産現場を持つエプソンだからこそ実現できた商品です。今後はさらなる使い勝手の向上と小型・軽量化により、あらゆる作業をより簡単に自動化できる環境をお客様に提供し、製造現場を革新していきます。

高速・高画質のオンデマンドカラーラベル印刷でお客様の印刷環境を革新

カラーラベルプリンター「TM-C7500」

商品の表示やアピールに必要なラベル作成では、商品ごとに写真や文字をデザインし、オンデマンドで美しいカラーラベルを高速で印刷することが求められています。そのようなお客様の要望を伺い、カラーラベルプリンター「TM-C7500」を開発しました。

最初に、お客様のラベルの作り方と使い方を調査し、お客様の困り事を把握しました。例えば、化学薬品容器へのGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)ラベルの作成では、2ステップを経てラベルを作成していました。

最初に会社ロゴや絵表示の赤ひし形枠といったGHSラベル特有のマークや表示を指定場所に印刷したベースとなるプレプリントラベルを複数種、外部の印刷業者に依頼し準備されていました。次に、お客様ご自身がバーコードラベル作成ソフトを用いて、薬品ごとプレプリントラベルに、バーコード、商品情報、絵表示のマークをモノクロサーマルラベルプリンターで印刷しており、次の3点でお困りであることが分かりました。

  • 多品種にわたる薬品用には多種類のプレプリントラベルを用意しておく必要があり、外部印刷業者への最小依頼数もあり、その在庫管理に手間がかかっている。
  • デザイン変更の度に不要となるラベルの廃棄費用が発生している。
  • バーコードも印刷するため、その処理にも時間がかかる。

このようなお客様の困り事を解消するため、TM-C7500の商品企画は、特にカラー・高速・高画質の実現とお客様のラベル印刷環境を生かしつつ、オンデマンドによるカラーラベル印刷ができる環境にスムーズに移行できることをポイントにし、開発を進めました。

  • カラー・高速・高画質を実現するために、PrecisionCore ラインヘッドを搭載し、最大毎秒300mmの高速印刷を実現。
  • プリンターの内部メモリーにあらかじめ画像情報を蓄積し、その画像情報とバーコードラベル作成ソフトから送信される文字やその他の印刷情報を合わせて、ラベルを印刷する機能を搭載することで、バーコードラベル作成ソフトから送信されるデータ容量を大幅に縮小し、データ送信・読み込みにかかる印刷待ち時間を大幅に短縮することが可能。
  • お客様のラベル印刷環境を生かすために、モノクロサーマルラベルプリンター印刷環境で主流であるZPLIIコマンドの主要なコマンドとインクジェットでカラー印刷を実現するエプソン独自のコマンドを包含したESC/Labelコマンドを搭載。
  • お客様がよくお使いになるバーコードラベル印刷ソフト3種の制作会社と協業し、TM-C7500Nativedriverをソフト3種に組み込んだことにより、お客様がシステム変更をせずにオンデマンドによるカラーラベル印刷ができる環境を実現。

医療関係の梱包業務をされるお客様からは、耐水性、耐アルコール性の高い顔料インクでの高画質カラー印刷による表現豊かなラベルによる商品識別の容易化や、オンデマンド印刷による従来のプレプリントラベルが削減されコストダウンが実現できたことに加え、ライフサイクルでの環境負荷低減ができたことに高い評価をいただいております。

エプソンは今後もより多くのお客様にニーズにあったラベル印刷環境をお届けすることで、ラベル印刷の世界を革新し続けます。